培養士が卵を取り扱う上で必要な物品はたくさんありますが、中でも採卵から移植、凍結まで常に使うのがパスツールピペットというガラス器具です。
卵の移動などに使うもので、培養液と一緒に卵を吸い上げ、別の容器の培養液の中に吐き出す、という使い方をします。
用途に合わせて太さが数種類あり、先端の太さは、太いものは直径約1mm、細いものは約0.1mm(肉眼ではよく見えない位)です。
要は細いガラス管なのですが、このパスツールピペットのできが悪いと仕事にならない、というほど重要なものです。
卵巣から採取した卵子は顆粒膜細胞という細胞に包まれており、その大きさは数mmです。一番太い直径1mmのもの(パスツールピペット)を用います。
顕微授精や観察の際には、顆粒膜細胞を取り去って、卵子自体を扱います。
卵子の直径は約0.1mmですが、中にはごく小さい卵子や、極端に大きい巨大卵もあります。
卵子のサイズに合わせて0.1mm~0.25mmくらいの太さのパスツールピペット(先細パスツールピペット)を使い分けています。
顆粒膜細胞を取り去る作業を裸化、通称皮むきといいます。
皮むきの際は、酵素に浸して顆粒膜細胞が脆くなったところで培養液に移し、先細パスツールピペットに吸い込んだり吐き出したりを繰り返します。
先細パスツールピペットの管壁との摩擦により、少しずつ顆粒膜細胞が剥がれていきます。
このとき、顆粒膜細胞の剥がれ具合により、使用する先細パスツールピペットを段階的に細くしていきます。
凍結する際は、クライオトップという幅2mmくらいのプラスチックシートに卵をくっつけて液体窒素に入れます。
クライオトップには少量の培養液と卵を一緒に乗せますが、このときの液量は少ないほど良く、作業にかかる時間は短いほど良いのです。
できるだけ細い先細パスツールピペットを使うのが上手に凍結する鍵となります。
それぞれの作業の際に適度な太さの先細パスツールピペットを用いないと、様々な問題が起こります。
太すぎると…
細すぎると…
先細パスツールピペットは市販されているものもありますが、市販品は直径が決まっているため、微調整ができません。当院では培養士が1本ずつ手作りしています。
1)市販のパスツールピペットの先端2~3㎝のところをアルコールランプの炎で加熱します。
2)ガラスが柔らかくなったら、左右に引いて延ばします。(図のような形になります)
※このとき、引く速度が遅いと太いもの、速いと細いものができます。
但し、引く速度が遅すぎるとガラスが溶け落ちてしまい、速すぎると千切れてしまうので、注意が必要です。
3)必要な太さの位置でカットします。
この時、切り口がまっすぐになっていなければなりません。
切り口がギザギザになっているものや、斜めになっているものは作り直しです。
4)顕微鏡下で切り口をチェックし、太さごとに分類して完成です。
乾熱滅菌してから使用します。