コエンザイムQ10は高齢女性のIVM卵の染色体異数性を改善する

コエンザイムQ10は高齢女性のIVM卵の染色体異数性を改善する

検査部の奥平です。

前回のブログでは、男性のコエンザイムQ10(CoQ10)摂取が精子の質を高める論文を紹介しました。
今回もCoQ10つながりで、CoQ10が高齢女性の体外成熟(IVM)卵の質を高める(染色体の異数性を改善する)ことを示した論文をご紹介します。

Coenzyme Q10 supplementation of human oocyte in vitro maturation reduces postmeiotic aneuploidies.
Fertil Steril. 2020 Aug;114(2):331-337. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.002.

対象・方法
本研究は、2017年9月から2019年5月の間に実施され、合計63人の患者が参加しました(その内、38歳以上が45人、30歳以下が18人)。患者からインフォームドコンセントを取得後、未成熟卵(GV卵)が研究に提供されました。GV卵は、50 μmol/LのCoQ10を添加した培養液(CoQ10群)もしくは無添加培養液(コントロール群)で24から48時間IVM培養されました。IVM後の成熟卵から第一極体を生検し、染色体の異数性を次世代シーケンシングにより調べました(卵子の染色体の片割れが極体の染色体なので、間接的に卵子の染色体異数性を調べることができます)。

結果
・38歳以上の女性の場合
IVM後の成熟率は、CoQ10群はコントロール群に比べて有意に高かったです(82.6% vs. 63.0%, P = 0.035)。
染色体異数性率はコントロール群で高かったですが、CoQ10群では有意に低下しました(65.5% vs. 36.8%, P = 0.020)。
染色体異数性頻度(異数性染色体数/分析した総染色体数)は、CoQ10群はコントロール群に比べて有意に低かったです(4.1% vs. 7.0%, P = 0.012)。

・30歳以下の女性の場合
CoQ10群とコントロール群を比べても、成熟率(80.0% vs. 76.9%)、染色体異数性率(28.6% vs. 30.0%)、染色体異数性頻度(2.3% vs. 3.5%)に有意な差はありませんでした(P > 0.05)。

本研究で観察された異数性の大部分(86.9%)は、姉妹染色体の早期分離に起因する三倍体および一倍体でした。残りは、全染色体不分離(3.3%)と分節性異数性(9.8%)でした。
23本全ての染色体に異数性が見られ、中でも21番と22番染色体が最も高頻度で見られました。


解説
老化した卵子の特徴として、染色体異数性の発生率が高いことが知られています。また、老化した卵子では、細胞質の欠陥も見られ、胚発生の能力が損なわれます。高齢女性の卵子の質に影響を与える多くの細胞質因子の中で、ミトコンドリアの機能障害が重要な要因であると考えられています。CoQ10は、ミトコンドリアの呼吸鎖における重要な電子運搬体であり、ATP(エネルギー)の生産に必要です。さらに、CoQ10は抗酸化物質でもあり、特に脂質過酸化やDNAの酸化を抑制します。しかし、CoQ10は加齢に伴い減少していきます。老化マウスを用いた実験では、長期間(12から15週間)のCoQ10補給によって、卵巣予備能の増加、卵子中のATP産生の増加、紡錘体構造の改善、生殖能力の向上が認められています。本研究では、IVM培地にCoQ10を添加することにより、卵子の成熟率が高まり、染色体の異数性が減少することが明らかになりました。では、女性がサプリメントとしてCoQ10を摂取しても同様な効果が得られるのか気になりますよね。実際過去にヒトでも臨床研究が行われており、CoQ10を摂取した不妊患者では、プラセボ群と比較して胚の質が増加し、異数性が減少する傾向が見られています。しかし、その研究では、検出力(サンプル数)の不足により統計的に有意な差は得られていないので、更なる大規模な検証が必要です。