胚培養士の奥平裕一です。
今回は「男性の加齢に伴う、精子のDNA損傷と酸化ストレスとの関連」について調べた論文を紹介します。
DNA fragmentation of sperm: a radical examination of the contribution of oxidative stress and age in 16 945 semen samples.
Human Reproduction, 2020年10月号から
対象・方法
2010年から2018年に不妊症の検査を受けた16,945人の男性(平均年齢37.6歳)を対象にした後ろ向きコホート研究です。男性患者を7つの年齢群(30歳未満、30-34歳、35-39歳、40-44歳、45-49歳、50-54歳、55歳以上)に分け、精子DNA断片化指数(DFI)、酸化ストレス付加物(OSA)、未熟精子率(HDS)を調べています。
結果
DFIとOSAは、30歳未満で最も低く、加齢とともに有意に増加し、55歳以上で最も高かったです。一方、HDSは、30歳未満で最も高く、加齢とともに有意に減少し、55歳以上で最も低かったです。
また全体で、DFIが低い患者はOSAも低く、DFIが高い患者はOSAも高い結果となりました。
解説
精子の質は加齢とともに低下し、DNA損傷を持つ精子の割合が多い男性では、自然妊娠や人工授精の妊孕性が低下することはよく知られています。さらに、精子DNAの損傷異常が流産率を高めるとの報告もあります。この精子DNA損傷の主な原因の一つは酸化ストレスです。しかし、男性の加齢、酸化ストレス、精子DNA損傷の関連は十分に明らかになっていませんでした。そこで本論文では、約17,000人もの男性不妊患者を調べ、精子のDNA損傷と酸化状態に反映される精子の質が加齢とともに低下することを示しています。ただし、加齢による男性のゲノムへの影響、胚の発育および染色体異常への影響、そして最終的には子供の健康への影響を評価するには、さらなる研究が必要です。