帝王切開術後瘢痕症候群について

帝王切開術後瘢痕症候群について

帝王切開のあとに月経が長引くようになったら、不妊になっている可能性があります。

帝王切開術後瘢痕症候群とは手術の際に切開した子宮の筋肉どうしがうまく癒合せず、子宮壁の菲薄化や、子宮内に粘液が貯留した状態が続く状態を言います。月経再開後もその傷口から微量の出血が続き、それが子宮内に溜まって妊娠(着床)を妨げるなど、不妊の原因になることもあります。帝王切開術の増加にともない、帝王切開瘢痕部症候群も増加しています。


【参考】帝王切開瘢痕部症候群の人の不妊症


なりやすい状態として、①妊娠Sonohysterography糖尿病 ②複数回の帝王切開術 ③肥満 ④子宮口開大後の緊急帝王切開術 ⑤子宮後屈 があります。

筋層の薄くなっているところに新しく新生血管が作られると、出血が起こり、血液の溜まりができて、下記の症状に繋がります。

①過長月経(月経の出血が8日以上続く)や不正性器出血

⓶不妊:着床を妨げ、不妊症の原因となる。溜まった血液が子宮体部に流入して着床を妨げ、不妊症の原因となる。 

ただし、妊娠を希望されない場合、過多月経などの症状がなければ、治療の必要はありません。

診断は、超音波検査やMRI、子宮鏡下検査で行います。Sonohysterographyといって、生理食塩水を子宮内に注入して子宮腔内が広がった状態にして、経腟超音波で観察するのが一番簡単でわかりやすい方法です。

【引用元】今までに帝王切開を受けたことのある妊婦さんへ p2


一般的に治療法としては手術が推奨されています。

子宮鏡で子宮の内側から瘢痕組織を切除し、新生血管を焼灼する方法や、腹腔鏡 や開腹手術によって子宮の外側から瘢痕部を切除し、子宮を縫い直す方法などがあります。ただし、侵襲の少ない子宮鏡下での手術は、ある程度軽度のものにしか有効ではないので、症状がしっかりあるものに関しては開腹が必要になってきます。まだまだ確立した治療法がないのが現状です。

当院でも、二人目以上の不妊の治療が増えていますから、この帝王切開後症候群で不妊治療がうまくいかないのではないかと考えられる例が増えています。以前数例、がっつり開腹手術での修復を行いました。症状(月経痛)の改善と中には、胚移植の成功につながったのではないかと思われる例がありましたが、やはり、開腹手術となると尻込みする方も多くいますので、試行錯誤をしてきました。

最も効果があった方法は、不妊治療、それも体外受精治療に対しての効果を狙うときに限りますが、ウルトラロング法による凍結胚の融解胚移植です。

まず、GnRH analogue投与で月経を止めてしまいます。自分のホルモンを抑えて排卵も月経も起こらない状態、閉経状態に持ち込みます。完全に月経がない状態で、つまり、月経血が子宮内に溜まらなくなってから、融解胚移植のプロトコルの薬剤を使って、内膜を厚くしていきます。あとは、通常のホルモン補充周期による融解胚移植と同じ手順です。閉経状態になった人でもホルモン剤を使用すれば、胚移植はできますから。このやり方のポイントは、通常なら月経開始とともにホルモン剤を使用するところを、月経がない状態にしておき、月経がないまま、ホルモン剤を使用していく、というところです。

これはずいぶん前、どうしても手術をしたくないけれど2人目が欲しい、という患者さんに試行錯誤している中で出てきたやり方です。月経を止めるのに2〜3ヶ月程度かかるので、時間を取られるのが難点ですが、試してみると、今までまったく着床しなかった例でも着床するようになり、非常に有効なやり方だと思っています。このやり方について調べましたが、文献もないようであまり行われていないようです。現時点ではどうしても手術療法が中心になっているようです。


【参考文献】