胚培養士の奥平裕一です。
今回は、「男性アスリート(プロサッカー選手)の運動トレーニング負荷は子の性比に影響するか?」について調べた論文をご紹介します。不妊治療の話題とは少し異なるのですが、論文のタイトルと内容にインパクトがあった為、これに決めました。スペインのコルドバ大学による研究であり、対象をサッカー選手とした点は、お国柄が表れています。
Birth sex ratio in the offspring of professional male soccer players: influence of exercise training load
Human Reproduction 2020年11月号から
対象・方法
南米チリのサッカー1部リーグに所属する75人の選手が、2017年8月から10月に募集されました(リーガ・エスパニョーラではないんだと思ってしまいましたが、チリ代表もFIFAランキングで最高3位の実績がある強豪です)。研究参加選手は同等のスキルと社会経済的背景を持っており、パートナーが妊娠前の運動トレーニング負荷が調べられました。
運動トレーニング負荷(量と強度)は以下のように設定されています。
・トレーニング量
1~2時間の身体トレーニングを1セッションとしています。
少量:1週間に4回未満のトレーニングセッション
中程度:1週間に6~8回のトレーニングセッション
多量:1週間に9回以上のトレーニングセッション
・トレーニング強度
修正ボルグスケールを用いて、1~10段階の主観的運動強度(PE)を評価しています。
低強度:PE 6未満
中強度:PE 6~8
高強度:PE 9以上
ちなみに、選手のパートナーはアスリートではなく、特にスポーツトレーニングは行っていませんでした。
結果
産まれた子の総数は122人(男児52人(42.6%)、女児70人(57.4%))でした。解析の結果、選手によるトレーニングの量(表1)または強度(表2)のいずれかが増加すると、出生比率が女児にシフトすることが明らかになりました。特に女児の場合、高強度のトレーニングでその割合(70人中45人)が顕著でした。
考察
X染色体とY染色体を持つ精子は、精子DNAに損傷を与える可能性のある様々なストレスに対して、異なる反応を示します。特に精子形成途中の精母細胞や精子細胞はより影響を受け易いです。よって、過度のトレーニング負荷によるストレスが、精子形成過程での性染色体の比率を歪めると推察しています。次は精子の性染色体を調べ、実際にX精子とY精子の割合が異なっているか調べると面白いと思います。また、本研究は、サンプルサイズが小さく、様々な交絡因子が存在することを著者らは認めています。さらなる研究が必要ですが、本研究の結果は大変興味深かったです。今回は、サッカー選手とトレーニング負荷との関係でしたが、他の職業でも仕事環境が子の性比に影響を及ぼすことは十分に考えられます。