理事長の中村嘉孝です。
学会参加のために、ローマに到着しました。
当院では、国内外のさまざまな学会に参加して、常に最新の情報を集めるように努めているのですが、学会で発表されていることを実際の治療に取り入れるには、その前に十分な吟味が必要です。
もちろん、新しい技術は副作用がはっきりしていない、ということがありますが、それだけではありません。
ありていに言ってしまうと、売名や宣伝のために平然とウソの内容を発表する場合もあるからです。
具体的には申しませんが、そのような学会発表を、真に受けて試したものの、何の効果もなく、数年するうちに、その治療法が立ち消えになった事例はいくつも経験しています。
ところが難しいのは、患者様がご自身でよく勉強しておられ、「こんな治療法はどうですか」と聞かれる場合です。
はっきりした根拠もなしに、「いや、でっち上げじゃないですか」という訳にもいきません。
また、不妊治療は確率ですので、当院で何度かダメであったのが、他の施設でその治療法を受けたとたんに妊娠したという事例もあります。
「なんだか、負け惜しみを言っているように思われるんじゃないかな」と考えると、尚のこと、そうは申し上げにくいのです。
学会は科学者の性善説にもとづいて運営されますので、たいしたペナルティがありません。
真偽のほどがわからないまま、立ち消えになっていくことがほとんどです。
数年前、韓国でES細胞の研究をでっち上げたことが事件になりましたが、世界中が先陣争いをしていた技術でノーベル賞候補の教授による捏造だったために、大きく取り上げられただけで、それも、もともとは卵子の違法な入手方法をめぐる疑惑から発覚したものです。
また、最近、やっと開示するようになりましたが、メーカーから金銭的な援助を受けている研究もあります。
さらに言えば、別に捏造ではなくても、研究にはいろいろなバイアスがかかります。
たとえば、ある治療法について、「効果がある」という研究結果と、「効果がない」という研究結果が半々の場合、どうしても、「効果がある」方は発表するが、ない方は発表しないということになります。
これは「発表バイアス」と呼ばれています。
さて、明日からの学会では、皆様が少しでも早く、確実にゴールにたどり着けることを願いながら、細心注意を払って、新しい情報を取り入れて参ります。