医師が汗をぬぐう時…

医師が汗をぬぐう時…

理事長の中村嘉孝です。

相変わらずの猛暑、一体、いつまで続くのでしょうね。エアコンがないために熱中症で亡くなられたという、まことに気の毒な事件がありました。

保守の論客、渡辺昇一が30年ほど前に書いた、『知的生活の方法』という本があります。
知的活動、とくに文系の研究者を続けていくための心得といった内容です。

本の最後の方に妙に具体的なアドバイスがあり、ワインは知的でよいがビールはだめ、とか、性生活はほどほどに、とか書かれていて、あまりに具体的で、少々パラノイア気味の主張が可笑しかったのですが、中にエアコンの重要性を強調しているところがありました。

「毎年夏は暑くて、ぼーっとしているだけで何も考えることができなかったが、エアコンを付けてから劇的に改善した。なんとしても部屋にはエアコンを入れよ」という話なのですが、これには、知的生活といっても、精神論よりなにより、物理的な条件が一番大事だということを思い知らされ、その率直かつ実践的な姿勢に感銘を受けました。

いうまでもなく医療施設では温度管理が重要ですが、室温だけの問題ではなく、輻射熱、対流熱、伝導熱など、いろいろな熱の伝わり方があり単純ではありません。
もちろん体外受精ではさらに厳重な温度管理をしており、受精卵を顕微鏡で観察するわずかの間さえも、恒温ステージに乗せて温度を管理します。

ところで、医療ドラマでは、手術中の医師の額の汗を看護師が拭く場面がよくありますが、手術室はエアコンがよく効いて室温がコントロールされているので、実際には、それほど目にする光景ではありません。

ただ帝王切開のときだけは、よく見かけます。
母子の二つの命がかかっているから緊張して、というのも無いわけではないですが、実は、赤ちゃんを保護するために、室温を上げておかなくてはならないから。

もちろん、無事に生まれて新生児室に移送したら、すぐに室温を下げてよいのですが、これを忘れていると、医者も看護婦も汗だくになってしまいます。