理事長の中村嘉孝です。
先日、経済の専門家の話を書いて、あるエピソードを思い出しました。
10年ほど前、オーク会の関係会社が商工会議所に入ったところ、会議所主催で投資セミナーをするという案内が届きました。
面白そうなので行ってみたら、会場には堅実な中小企業の親父さんといった風情の参加者が300人ほど集まっています。そして、その前で投資コンサルタントという女性の講師が、海外のヘッジ・ファンドへの投資を奨め始めたのです。
確かに、当時のヘッジ・ファンドの中には年間何十パーセントという劇的な利回りを上げるものもありましたが、リスクをとってレバレッジをかけているのだから当たり前のこと。
別に専門家でなくてもわかる話です。
しかし、隣の席の真面目そうな社長さんは、「時代に取り残されてしまう」と焦ったのでしょう、慌ててメモまでとっています。
そして講師の先生は、「日本人には戦略がない」、「海外は仕組みをつくるからリスク以上に儲かる」など言いたい放題です。
私は、金融の素人ではありますが、そのあまりのでたらめぶりに納得がいかず、講演後に質問というか、抗議をしたところ、主催者から打ち切られ、つまみ出されてしまいました。
その後、欧米の金融がどのような道をたどったかは、ご存知のとおりです。
しかしながら、当時は、数多くの経済の専門家が、本気でそんなことを声高く言っていました。
もちろん、それを商売にする人は思惑があって言っていたわけですが、彼らの多くは、それを本気で信じてしまい、善意で奨めてしまったのだと思います。
前にも申し上げた通り、不妊治療をはじめ、医療の分野でも同じようなことがあります。
また同じように、でたらめの発表を信じてしまい、患者さんにそれを奨める医師が、必ずしも悪意ではないところに難しさがあります。
さて、腹を立てながら商工会議所をあとにした投資セミナーの帰り道、よく考えてみると、開業時の借金ばかりで、私には投資するものが何もないことにハタと気づきました。
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投資家がアルファ・リターンを得るために(偽アルファ・リターンというべきだろうが)、法外な手数料を支払いたいというのであれば、他人が口出しする理由はないという見方もあるだろう。
(『大いなる不安定』 ヌリエル・ルービニ、スティーブン・ミーム著、ダイヤモンド社 から)