医師の田口早桐です。
先日、カウンセリングに来ていただいた方の、お話。
3年前まで、二年間ほど当院で体外受精を中心とした不妊治療をさせていただいていました。本当に素直な方で、仕事もとても忙しくて大変そうだったけれども、精一杯取り組んでいました。私たちも、とにかく結果を出したくて、全力を尽くしていました。本当に、「あともう一歩」「次こそは。」と思っていました。
そんな時に、どうしてもご家族の意向があって、転院されることになりました。
なかなか妊娠につながらないと、ご家族も納得できないし、ご本人も少し不安になるでしょうし、周りに強く勧められて転院を希望されるということは、不妊治療をしていると時々あります。私たちはそれなりに治療を通じてその人の状態を把握し、データを積み上げてきて、必ず結果を出すつもりでいるので、とてもがっかりしますけれど、そんなときは、今までの経過を書いた紹介状をお渡しして、うまくいくことを祈るのみです。しかし、ずっと、気になってしまい、その後も折に触れて思い出しては、どうなったかな、と考えます。
その方のことも、ずっと、気になっていたし、ご家族に納得される説明が出来なかった自分を責めていました。なので、今回、お会いした途端に、胸が一杯になりました。
ご家族の意向で転院はしたけれど、転院先のクリニックのやり方はご自身が納得できなかったとのこと。でも、戻ることは、こちらに快く思われないからと、しばらく通院を続けたけれど、結果につながらず、やはり自分が納得できるところで治療を受けたいと、ご家族に申し出て、戻ってこられたとのこと。
涙ぐんでしまいました。
そのときの言葉で、一番嬉しかったのは、「オークでは、結果が悪くても、通院が嫌だ、とは思わなかった。また、頑張ろうと思えた。でも、転院先では通院が苦痛で仕方なかった。結果はどうあれ、自分がいいと思うところで、治療を続けたい。」と、言っていただいたこと。
不妊治療は、もちろん、まずなによりも、技術、技術、技術、です。
それは、必須。しかし、それでも、長丁場になることもあるし、流産もあります。
それを乗り越えて行くための力は、人間対人間の関係の中でしか、生まれません。
皆さんが、ご自分の納得できる治療を受けられるように、切に願いますし、努力を惜しまないつもりです。ですから、転院したって、いつでも、なんでも、相談してください。不妊治療経験者がなぜか多いオークです。気にしません。
むしろ、嬉しいくらいです。
(そういえば、転院先が日曜採卵してくれないから、チャンスを逃したくない、と、採卵直前に戻って来られた方もいました。もちろん、バッチリ、採卵させていただきました。)