理事長の中村嘉孝です。
『同性愛の謎-なぜクラスに一人いるのか』(竹内久美子著、文春新書)を読みました。いやあ、面白かったです。
エピソードの一つに、LHについての実験がありました。
不妊治療中の方々はよくご存知のLHサージ。月経の12日目ごろに脳の下垂体というところからLHと呼ばれるホルモンが大量放出(サージ)される現象で、これが契機となって36時間後に排卵がおこります。
ではLHサージ自体は何がきっかけになっておきるのかというと、卵胞からのエストロゲンです。
月経期から卵胞が徐々に大きくなってくると、それにつれて、卵胞の細胞で作られるエストロゲンの量も増えていきます。そして、エストロゲンの値の上昇を脳が感知してLHサージが起こるのです。
ですので、女性にエストロゲンを注射すると一過性にLHが上昇します。
一方、男性の脳下垂体も同じLHが分泌しているのですが、試しに男性にエストロゲンを注射してもLHの上昇は起きないそうです。
これは脳の構造が違うからなのでしょうが、なんと、同性愛の男性では、エストロゲンを注射したら、女性と同じようにLHが上昇したというのです。
さて、生殖活動が行われないわけだから、遺伝的には淘汰されてしまうはずの同性愛の遺伝子が、なぜ、高い割合で存在し続けるのか、このパラドックスについて論じた本なのですが、最近では生殖医療技術によって、ドナーさえいれば同性愛者間でも、どちらかと遺伝的つながりのある子どもができるようになってきています。
それが、これからの社会にどのような影響をもたらすのでしょうか。
同性婚の権利うんぬんといった政治的な文脈ではなく、最新の知見をもとに生物学的な事実から同性愛を考えるのに、最適の書だと思いました。