着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その2

着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その2

医局カンファレンスです。

子宮内膜白血球の数は、排卵後から胚着床期にかけて 急増するわけですが、そのほとんどは子宮内膜に特徴的なナチュラルキラー(NK)細胞の増加によるものです。

子宮内膜NK細胞は排卵前期と比べて、着床期には5-10倍多いのです。
NK細胞がこれほど多数見られる臓器は他にはありません。(敢えて挙げれば肝臓です。肝臓には比較的多数の NK細胞、それも子宮内膜に似た特徴をもつものが存在します。)

その形と機能的な特徴からNK細胞に分類されていますが、 子宮内膜NK細胞と「**から抽出した###にNK活性を高める作用、ガン予防に効果??」などと謳われる循環血液中のNK細胞とでは大きく性質が異なります。
子宮内膜NK細胞と近い性質をもつNK細胞の循環血液中での割合は、非常に小さく末梢血全白血球の0.5%未満です。

原因不明の不妊症や不育症の検査として末梢血NK細胞活性測定が 一部行われています。
しかし、その結果の再現性には古くから疑問が持たれています。
大学院生時代の予備実験で、自分自身の血液を採り、2本の試験管に分けてNK細胞活性を測定したところ、その値が5%以上違ったことを経験しており、ちょっとした条件の違いで、結果が大きく変わることを実感しました。

末梢血NK細胞活性値が高い患者さんに対して治療が薦められることがあるようですが「このような診療方針は子宮内膜NK細胞の 機能の異常が不妊症や不育症に関与し、子宮内膜NK細胞機能異常は、末梢血NK細胞機能の分析により予測できるという“誤った仮説・前提” に基づいたもので、末梢血NK細胞活性を基準とした不妊症や不育症の 治療に科学的根拠はない」として、子宮内膜NK細胞研究のパイオニアのひとりである英国・ケンブリッジ大学のアシュリー・キング・モフェットらも ずいぶん前に警鐘を鳴らしています。
(British Medical Journal 329(7477): 1283-1285.)

着床期に増えることから、子宮内膜NK細胞は当初は妊娠成立に重要な 粘膜白血球とされましたが、必須というわけではなさそうです。

どちらかというと妊娠成立よりも月経発来により重要な働きをするのでは ないかという研究もあって私もどちらかというとその意見に同意します。
(ちなみに、閉経後や初潮前の子宮内膜にはこのNK細胞は極めて少ない ことも知られています。また、子宮内膜NK細胞を欠損したマウスが作られ ましたが問題なく胚着床が起きることが確認されています。)

以前に、慢性子宮内膜炎と非内膜炎で一定面積内の着床期の子宮内膜NK細胞数を 比較しましたが統計学的には差はありませんでした。 (Modern Pathology. 2010 Aug;23(8):1136-46.)

このように取り扱いの難しい子宮内膜NK細胞ですが、習慣流産や 後期妊娠合併症(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病)への関わりが提唱されて おり、これらは今後の研究課題です。