安易

安易

理事長の中村嘉孝です。

妊婦血液による胎児の染色体検査について、日本産科婦人科学会が「安易な実施を慎むべき」との声明を発表したとのことですが、前日に、厚労相の小宮山氏が学会にガイドラインをつくるように求めたことを受けた声明のようです。

厚労相は、「『障害がないのを知りたいという希望は分かる』と診断法に理解を示しながらも、『命の選別にはならないか』と懸念を表明、学会に自主規制の指針を示すように求めた」とのこと。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG3101M_R30C12A8CR0000/

また別の報道によると、厚労相は、学会のガイドラインに加えて、国民的議論が必要との認識も示されたそうです。厚労相の小宮山氏は、NHKのアナウンサーを経て解説委員となった方のようですが、いかにも「クローズアップ現代」的な回答で、入試の小論文なら満点ではないでしょうか。

「立場Aの心情もわかる。立場Bの論理もわかる。専門団体は自らの責任の重さを自覚してガイドラインを定め、同時に、国民的議論が必要。」

医者は所詮、技術屋です。高血圧治療のガイドラインではあるまいし、今回のように倫理そのものが論点である場合には、その意見は一般市民以上の何ものでもありません。
尖閣諸島への上陸の可否について、日本地理学会にガイドラインを作れというのと同じこと。どうしても学者の意見が必要だというのであれば、むしろ、生命倫理学会に尋ねるべきです。
もちろん、絶対に結論は出ないでしょうが。
第一、産科婦人科学会がガイドラインを作っても、学会はあくまで任意加入の組織ですから、会員でなければ関係ありません。また今回の場合、手技的には採血するだけのことですから、内科医院でもできます。

では、国民的議論についてはどうでしょうか。

何か中絶の是非が、いまだにアメリカ大統領選挙の争点となるように、国民的議論が結論を出すわけでもありません。そもそも、国民の関心は気まぐれで、論理一貫性などあるはずもありません。
前回のブログで産み分けのPGDの話を書きましたが、タイでは、産み分け目的のPGDが普通に行われている一方、中絶は禁止されているとのこと。もちろん、ご存知の通り、日本の実情は逆です。

では、どうすればよいのか。私は、たとえ場当たり的であっても、時々の政治的判断によって法律で規制するしかないと思っています。不合理で理不尽な結果になるかも知れませんが、それが人間社会の宿命であり、同時に、それについて批判を甘んじて受けることが政治の責務です。

さて、この日産婦学会の声明、政府に求められたからといって応じるのはいかがでしょう。
このような姿勢が、かえって不必要な混乱を招くのがわからないのでしょうか。会員として、つくづく残念に思います。私は学会を代表する資格はありませんが、皆さまには深くお詫び申し上げます。

そして、会長に対しては「安易な声明を慎むべき」と申し上げたいと思います。
まあ、こんなブログ見ることないでしょうけど。