医師の田口早桐です。
先月、バンクーバーで開かれた、Animal reproduction 学会に参加してきました。
体外受精に関する研究の発表の場ですが、ほとんどの研究はヒト以外の動物に関するものでした。
なぜ、わざわざそんな学会に?と思われるかもしれませんね。
実は、体外受精の技術は、畜産の分野で非常に発達しています。
現在我々が人間に適用している技術は、もともとは畜産の世界で考案され、安全性が確認されたものがほとんどなのです。
代表的なものとしては、受精卵を凍結する方法のひとつ、ガラス化法(Vitrification)。
通常細胞を凍結保存するときには、細胞を凍結による障害から守ってくれる溶液にいれて、プログラムフリーザーという機械で段階的に温度を下げて行います。
電子レンジのように、並べておいて、チン、と言う感じです。簡単で誰にでもできるのですが、時間がかかること(2-3時間)、高価な機械が必要なこと、がデメリットです。
以前はほとんどこの方法で行っていました。
しかし、細胞内で氷を形成するため、受精卵に対しては非常にダメージが大きく、凍結したものを解凍しても回復しない、ということもよくあり、融解胚移植の成績は非常に悪いものでした。
しかし、畜産の分野で発達してきたガラス化法を用いるようになってから、非常に成績がよくなりました。
今ではほとんどの施設でこの方法が用いられています。ちなみに「ガラス化」というのは、超急速に凍結するときにおこる現象のことで、液体が氷の状態を作らずに、ガラス状の個体になることです。
新しい技術を人間に応用するときには、それがどんなに素晴らしいものに見えても、安全性を確認しながらすすめる慎重さが必要です。
しかし、ガラス化法の考案という例に見るように、その後のヒト生殖に革命をもたらす技術の宝庫であることは確かですので、畜産及び動物における生殖研究からは、目が離せません。