医師の田口早桐です。
不妊治療を受けていて、体外受精にステップアップするときというのは、とても勇気が要りますね。
点鼻薬を何時と何時にスプレーして、この日は病院に行ってチェックを受けて…、と、初めてのときは特に(もちろん2回目以降はないに越したことはありませんが)何か失敗がないかどうか緊張の連続ですよね。
そうして連日の注射が終わり、いよいよ採卵となると、緊張はピークに達しています。
そしてその後、我々の前に示される数字の数々…。
採れた卵子の数、精子の状態、受精した卵子の数…。最後に受精卵のグレード。
客観的な数字で表さないことには仕事になりませんのでそうしますけど、これが体外受精を受ける人の側からは、大きなストレスになります。
私も経験がありますが、グレード2とか3とか言われると、「1じゃなかったんだ…。」とかなり落ち込んでしまいます。なかなか立ち直れず、やめてしまう人もいます。
しかし、初回の採卵で受精卵の状態が悪かったからと言って次回も悪いとは限らないのです。
もちろん、症例ごとに、受精卵の状態を良くするための手立てがあればそれを講じる必要はありますが、取れる卵子の状態も各周期によってばらつきが大きいようです。
少し前の論文になりますが、今年の4月にFertility Sterilityに掲載された、Intra-age, intercenter, and intercycle differences in chromosome abnormalities in oocyteでは、同一患者に1年以内に、2周期続けて採卵を行った場合の染色体の数的異常の発現頻度が、同一年齢内と周期間にどのような差異が認められるか、2箇所の施設で計452周期調べています。
結局、年齢と共に、正常の卵子の割合は減る、というのは事実でしたが、同一個人でも、周期ごとにかなり違った結果となるようでした。
妊娠するかしないかは、卵子が正常かどうかが最も重要な因子ですから、今回状態が良くなくても、採卵可能であれば何回かトライする価値は充分あると思います。