医師の田口早桐です。
ここのところ、シンドラー社のエレベーター事故や、万里の長城での遭難など、ショックな事故のニュースが相次ぎました。詳しい内容は知らないのですが、
何よりも、お亡くなりになった方のご家族がどんなに悔しいお気持ちかを考えると、胸が痛みます。心よりお悔やみ申し上げます。
私自身も仕事上、もっと直接的に人の命に関わっています。
それを一番感じるのが、採卵の時。採卵の痛みを無くすために、当院では、麻酔をかけることが多いです。
無麻酔での採卵を方針としているところもあるようですが、患者さんによっては、痛みの為に体を動かしてしまうこともあり、操作が危険になります。
痛みに対する反応は、人さまざまです。
当院では、あらかじめ患者さんと話をして、「はじめから完全に寝ておきたい。」のか、「痛みを感じてから麻酔をして欲しい。」のか、「痛み止めだけで意識はあるようにして欲しい。」のか「ややぼんやりした状態にして欲しい。」のか、もしくは「麻酔は一切したくない。」のかを、相談して決めておきます。
もちろんその場で急に変更される方もおられますが、いつでも対応できるようにしています。
採卵には通常、医師が複数立ち会いますし、心電図モニター、経皮的酸素飽和度モニター、血圧モニターを装着し、いつでも薬剤投与ができるように点滴ラインを確保して、腹部の手術などの全身麻酔の時と同じ体制をとっています。
たとえ何か不測の事態が起こってもよいように、すぐ横に麻酔器と緊急薬剤が常にセットアップされています。
実は当初は、重装備にしすぎではないか、という声も内部から起こっていたのは事実です。
採卵そのものに掛かる時間は、卵胞数にもよりますが、1分から、せいぜい長くても10分。
ほとんどの場合5分もかかりません。それに対して、こちらはフル装備。機械のメンテコストも高いですし、緊急薬剤を全て揃え、期限切れになって全て破棄して買い直し…を繰り返すことになります。
しかし、非常に短い時間とはいえ、それを怠ったり端折ったりするのは、できません。
医療者側としては、それは最早患者さんのため、というより自分たちのためなのです。自分たちが安心して仕事に打ち込めるようにしていることなのです。
あらゆる事態を想定し、そのために出来る準備は全て整え、そしてその上で、日々の安全を毎日祈っています。