医局カンファレンスです。
外来で時々いただくご質問が
「子宮内膜の血栓と着床不全の間に因果関係がありますか?」
「アスピリンは着床不全に効きますか?」
というものです。
血液の中では、
1. 血を固めるための細胞や蛋白質 と、
2. 血が固まるのを防ぐ(あるいは溶かす)細胞や蛋白質 とが
バランスを取り合っていますが、1の方が2に比べて強く働きすぎると、血管の中で血が固まりやすくなり、現に血栓ができやすい体質の方がおられます。
専門的には「栓友病(thrombophillia)」と呼ばれる疾病のグループで、先天性のものから後天性のものまで、その原因はさまざまです。脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などの生命を脅かす病気を引き起こします。
栓友病の血栓予防薬として、もっともよく用いられるのがアスピリンです。
アスピリンは、血管の中で血小板(血液を固める細胞)に作用します。血小板の凝集を防ぐことによって、血栓が作られるのをブロックします。
生殖医学領域では「栓友病体質は、一部の不育症・習慣流産の原因である」ことがすでに知られています。
代表的なものに「抗リン脂質抗体症候群」や「凝固第12因子欠乏症」などがあります。このような不育症・習慣流産に低用量のアスピリン内服を含んだ抗凝固療法が有効です。
一方、「栓友病が、着床不全の原因であるという証拠は、いまのところありません」そして、「着床不全にアスピリン内服が効くという証拠も、いまのところありません」
最近の論文でもこれらの事実が支持されています。
(Dentali F, et al., J Thromb Haemost. 2012;10: 2075-2085.),
(Steinvil A, et al., Thromb Haemost. 2012;108:1192-1197)。
ごく一部ではありますがこの事実を知らずに、あるいは無視してか、アスピリンを不妊症・着床不全の患者さんに処方されている産婦人科医がおられます。
もちろん、色々な考え方があろうかとは思いますが、アスピリンは“現時点”では、不育症・習慣流産のための薬で、不妊症・着床不全のための薬ではないことを、知っておいていただければと思います。