ヒトの精子とがん細胞の増殖には共通点

ヒトの精子とがん細胞の増殖には共通点

医局カンファレンスです。

5月19日に放映されたNHKスペシャル「病の起源・第一集・がん~人類進化が生んだ病~」をご覧になりましたか?生物進化からがんを捉えた大変興味深い内容でした。

がんは多細胞生物の宿命の病気であること、脳の巨大化やアフリカから各地への人類の移動が、がんの増加と関係していること、期待の抗がん剤・脂肪酸合成酵素阻害剤など初めて耳にする話題が目白押しで新鮮でした。

前回ブログで取り上げたビタミンD欠乏症の話も出てきました。
その中でもひときわ目を引いたのが、精子とがん細胞の共通性の話です。

日本人のがん死亡率は約30%、一方、ヒトと遺伝子が1%しか違わないチンパンジーではわずか2%。
この1%の遺伝子の違いにがん死亡率の差があるのではないかと考えた研究者が調べたところ、精子を作る遺伝子に辿り着いたそうです。

ここを詳しく知りたくて検索してみると、ヒトとチンパンジーの間ではY染色体にあるMSY(male-specific region of the Y chromosome)と呼ばれる領域に大きな違いがある、という報告が見つかりました。

では、ヒトとチンパンジーでなぜ精子形成に関わる遺伝子が違うのか?
番組によると「二足歩行化」が関係しているようです。
もっとも、このあたりの解説はすんなり呑み込めるものではありませんでしたが…

そして、ヒトの精子とがん細胞は増殖するための共通した方法を獲得しているという説明がありました。

もしそうであれば、がんは精子を作る臓器・精巣に出来ることが多いのでは、と推測されます。
精巣胚細胞腫瘍という、精子に育っていく系統の細胞から発生する悪性腫瘍がありますが、実際にはそれほど多い病気ではありません。

また、確かに男性よりも発癌率は低いですが、Y染色体(MSY)をもたない女性もチンパンジーよりもずっと高い確率でがんになります。

本当に精子形成遺伝子の違いでヒトとチンパンジーのがん死亡率の大きな差を説明できるものなのかなあ、とふと疑問に思いました。

根拠にもとづいての放送だとは思うのですが、ご存知の方がおられたら、教えていただけるとありがたいです。