子宮腺筋症と着床不全…その2

子宮腺筋症と着床不全…その2

医局カンファレンスです。

さて、子宮腺筋症が着床に影響するか?
査読論文として発表されているものは、私の知る限り3つしかありません。
いずれも過去3年以内の報告で、腺筋症と不妊症についての臨床研究は前へ進み始めたばかりと云えます。
Mijatovic V, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2010;151:62-65.
子宮腺筋症を持っている女性の多くが、子宮内膜症を合併することが以前から知られています。

この研究では、腹腔鏡で内膜症と診断された不妊患者を、超音波で診断し、腺筋症の有る20人と無い54人に分けて比べています。
3ヶ月以上のGnRH アゴニスト(*参照)使用後、HMG+HCGで卵巣を調節刺激(ウルトラロング法にほぼ相当)、採卵・IVFを行い最大2個の新鮮初期胚移植とプロゲステロン膣錠による黄体補充が行われました。
受精率、着床率、流産率、継続妊娠率すべての項目で、2つのグループに差はありませんでした。

Martínez-Conejero JA et al. Fertil Steril. 2011;96:943-50.
上の研究と同じく、腺筋症と内膜症の両方を持つ不妊女性152人と、内膜症のみ合併の不妊女性144人の比較です。
腺筋症は超音波またはMRIで、内膜症は腹腔鏡で診断。さらに超音波で正常な不妊女性147人を対照として加えています。(この研究の解釈にはいくらか注意が必要です。内膜症のみ合併のグループでは、他のグループより患者年齢が若く、過去の治療周期数も少なく、条件がよい可能性があります。)
対象者は全員、提供卵子により授精した胚移植を受けています。クオリティーの高い選ばれた胚のみの移植と解釈できますが、ドナー(提供患者)の卵巣刺激法やレシピエント(移植患者)の黄体補充の方法、新鮮・融解胚の内訳などの説明は書かれていません。
両グループで受精率、着床率、継続妊娠率に差はありませんでしたが、腺筋症+内膜症グループでは流産率が高く、その結果、生産率は低くなってしまいました。

Thalluri V & Tremellen KP. Hum Reprod. 2012;27:3487-92.
超音波で腺筋症の有る不妊女性38人と、無い不妊女性175人を対象にしています。
内膜症の有無は調べられていません。
この研究ではGnRH アンタゴニスト(*参照)を卵巣刺激に用いています。月経第2-3日目からリコンビナントFSH、5日目からアンタゴニストを連日注射するfixed法です。
HCGとGnRH アゴニストで卵胞成熟を促し、採卵へ進んでいます。
第4-5日目の新鮮または融解胚を移植しています。
黄体補充はエストロゲンとプロゲステロン膣錠。
腺筋症グループでは、着床率、臨床妊娠率とも有意に低いという結果でした。
これらの限られた情報から考察できるとすると、子宮腺筋症がある場合の調節卵巣刺激は、GnRH アゴニスト法が、GnRH アンタゴニスト法よりも優れているかもしれないということです。これは重要な事項だと考えます。
胚着床については、3つの研究でそれぞれ違った結果が得られており結論を導き出すのは不可能です。歯切れが悪くて恐縮ですが…
また胚移植の方法やアシステッド・ハッチングの有無などはまちまちで、いずれにせよ良くデザインされた検討が必要です。

*GnRHアゴニスト:ブセレキュア、スプレキュア、ナサニ-ル、リュープリンなど
 GnRHアンタゴニスト:セトロタイド、ガニレストなど