インテグリンと着床不全

インテグリンと着床不全

医局カンファレンスです。

最近の自分のブログの文章がかなりくどいことに気づきました。
そこで、できるだけ本文は短くして、踏み込んだ説明が必要な場合は、注釈として文章の最後に付け加えることにしました。お急ぎの方は飛ばして読んでいただいて結構です。

今日は、細胞と細胞をくっつける“糊(のり)”の話です。
インテグリンは、細胞同士の結合に関わる接着因子と呼ばれる分子の一種です。胚と子宮内膜細胞の接着、つまり着床の時にも働くと考えられます。

子宮内膜症や子宮腺筋症をもつ女性の内膜では、ある種のインテグリンの量が減っていて、胚着床には好ましくない環境になっているのではないかと推測されてきました。

ところが先日、英国から子宮内膜のインテグリン分布と反復着床不全の間には関連が無い、というレポートがありました。(Coughlan C, et al., Fertil Steril, in press)

計3回・4個以上の良好胚の移植にも関わらず、妊娠が成立しなかった反復着床不全患者と、自然妊娠/分娩歴のある女性から、胚着床期(分泌期中後期、注*1 参照)に内膜を取り、3種類のインテグリン(α1, α4, ,αVβ3)について比べています。

その細胞分布や蛋白染色強度(注*2 参照)に差は無く、この結果を、反復着床不全患者の次回の体外受精・胚移植の成否の予測に用いることはできなかった、ようです。
内膜のインテグリンの蛋白量の比較については十分できているとはいえませんが(注*2 参照)、これまで考えられていた結果とは違うものでした。

大変手間のかかる調査ですが、このような地道な研究が積み重なってくれば、着床に本当に必要な分子は何かがやがて分かり、診療にきっと役立つと期待しています。

*1:LH大量分泌後7~9日目(排卵後5-8日ごろにあたる)の子宮内膜で比較しています。

*2:インテグリンの検出には免疫組織化学法による発色法を用いています。この発色の強さをH-score法という子宮内膜でよく用いられる評価法で半定量化しています。
私もよく利用してきたH-scoreですが、染色条件のわずかな違いや観察者の判定に影響されやすく、結果の解釈には十分注意しなければなりません。
発色強度が強い(弱い)=蛋白量が多い(少ない)とは単純に云えません。