iPS細胞の臨床応用

iPS細胞の臨床応用

医師の船曳美也子です。

iPS細胞を使う臨床研究が、世界ではじめて、厚労省により承認されました。
具体的には、日本で失明原因の4位の「加齢黄斑変性」を対象とする臨床研究計画を承認するものです。つまりiPS細胞を使った再生網膜を使う治療です。

さて、iPS細胞の復習を。

まず前提として、同一個体なら、すべての体細胞の染色体は同じコピーです。
その染色体の中のどの遺伝子が発現するかで、細胞の形や性質がかわるのです。

そして、体中のすべての細胞に分化する可能性を持つ細胞があり、万能幹細胞といいますが、これは、すべての細胞の元、受精卵にあります。胚盤胞の内細胞塊からとった細胞で、ES細胞(Embryonic stem cell 胚性幹細胞)といいます。

iPS細胞とは、自分の体の細胞に、特定の遺伝子を導入し、さまざまな細胞へ分化可能な幹細胞にしたものです。ES細胞は受精卵でしたが、iPS細胞は体細胞からできたものなので、臨床応用に倫理的問題がなくなりました。

そこで、iPS細胞からつくった正常な細胞を病気の細胞におきかえる「再生治療」が期待されています。
臓器を作る研究では、今回臨床研究申請が受理された理化学研究所は、iPS細胞から網膜組織を作ることに成功していますし、東大では動物の体内で人の臓器をつくる研究もされています。

不妊治療にも応用が期待されるところです。
すでに動物では、2012年10月京大がマウスiPS卵子からマウス作成に成功しています(*)。
が、人間の精子や卵子は、作成には10年ほどかかりそうなのと、倫理上の課題があるとして、文部科学省の研究指針は作成した生殖細胞の受精を禁止しています。

2050年の未来を描いた「セックス・イン・ザ・フューチャー」では、ネズミの体内で自分の精巣を作り、ネズミの射精した精子の中に混じった自分の精子を回収するという描写があってギョッとしましたが、十分実現性ある話になってきたと思うのは先走りすぎているでしょうか。

* iPS細胞がつくった卵子の元になる細胞(始原生殖細胞)を、マウス卵巣内に移植し、卵子を作らせ、その卵子を体外受精してマウスが生まれています。

* ちなみに、クローン胚は、受精していない核をのぞいた卵子に、体細胞の核を移植したもので、それを子宮にもどすとクローン××ができます。1996年作成された羊のドリーが有名ですね。