顕微授精でも受精しない場合

顕微授精でも受精しない場合

医師の田口早桐です。

顕微授精は、ご存知のとおり精子を卵子細胞質内に注入する方法です。直接精子を注入するため、高度乏精子症であっても、極端に言うと一匹の精子がいれば受精させることができます。
しかしながら、精子を卵子に注入しても、受精、分割が確認できないことがあります。
原因として、卵子の質が悪いということも考えられますが、受精しない割合が多い場合は受精卵の活性化操作が必要になることがあります。

自然な受精の場合であっても、精子が卵子に侵入した際に、卵子内のカルシウムイオン濃度が急激に増え、それをきっかけとして細胞分裂が開始します。精子が卵を活性化する力が弱い場合には、卵子内に精子を入れたのに、つまり、受精させたはずなのに分割がおこらないということが起こります。

受精卵の活性化させるということは、細胞内外のカルシウムイオンを変化させてカルシウムイオン濃度を上げることを意味します。そのための方法として、カルシウムイオノフォア、塩化ストロンチウム、電気刺激法などがあります。先の受精着床学会でも、いくつかこれらの方法を比較検討した演題が出ていました。

我々の施設で検討した結果、現在、卵子の活性化が不十分と考えられる症例に対して、主にカルシウムイオノフォアを用いて活性化を行っています。
結果は極めて良好で、これまで他施設で顕微授精をしたものの胚移植ができなかった例でも、移植や凍結を行うことができるようになります。症例により、他の活性法が有効な場合もあります。
また、TESE(精巣精子採取)の場合は、重度男性不妊例での活性化障害が多いので、卵子活性化を行うようにしています。

ちなみに、イオノフォアとは、「生体膜において、特定のイオンの透過性を増加させる物質」を意味し、カルシウムイオノフォアとは、カルシウムを取り込む物質ということです。
具体的には、顕微授精後、培養液に薬剤を加えて活性化を促します。
また、現在のところ、活性化操作による胎児への影響はないと考えられています。