インスリン抵抗性

インスリン抵抗性

医師の船曳美也子です。

9月の第一日曜、第33回産婦人科漢方研究会という学術集会がありました。
今回のシンポジウムのテーマは『生殖医療』ということで、当院で行っている体外受精を含む生殖医療を中心に、ダイエットや漢方についてもお話ししてきました。福岡であったのですが、年1回のためか、札幌や岩手など全国から大学を含め先生方がお集まりになっておられました。

内容は、

  1. 日本基準の肥満の方の妊娠率について
  2. オーク式ダイエットで妊娠率がどうかわったか
  3. 肥満が不妊にあたえる影響は、排卵障害か受精卵の質か着床問題か

といった内容です。

私たちが、オーク式ダイエットプログラムを始めたのが2007年。
その前後で、PCOSの基準もかわりましたし、以前はインスリン抵抗性の細かい機序などは明確ではなかったのに、分子生物学の発達で細かくわかるようになっています。
普段は年月が過ぎるのをあまり感じませんが、5年もたつと医学知識の量が全く違うことに驚かされます。

インスリン抵抗性というのは、インスリンがでているのに効きにくい状態のことですが、肥満で排卵障害のかたにしばしば起こっています。

血糖(グルコース)が筋肉で利用されるとき、グルット4という膜輸送タンパクが筋肉細胞の表面にでてきて糖をとりこみます。普段は細胞内に待機しているグルット4が、インスリンの刺激をうけると、細胞表面にでてくるのです(トランスロケーションといいます)。名前もglucose transporter(糖を輸送するもの)でグルットなのですね。

インスリンが分泌されるのに、グルット4がでてこない状態を、インスリン抵抗性が高いといいます。
グルット4は、AMPKという酵素ででます。このAMPKは運動やアディポネクチンという蛋白の刺激ででます。
内臓脂肪が肥満していると、内臓脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンの量がへるため、グルット4がトランスロケーションしない、というわけです。

メトフォルミンも、AMPKを刺激する薬なので、糖尿病治療薬にもかかわらず、インスリン抵抗性が高い排卵障害のPCOSの治療にも用いられます。
ただし、肥満のかたは、まず減量です。
というのは、脂肪細胞は肥大するとTNF-αという蛋白を分泌するので、これが、卵胞のFSHレセプターを抑制してし、卵胞が育たないという機序が考えられるからです。