革命

革命

理事長の中村嘉孝です。

体外受精の世界では、次々と革命的な技術が発表されます。
にもかかわらず、日本産科婦人科学会の統計では、IVFの妊娠率は上がっておらず、むしろ高年齢化のために下がってさえいるのです。
何か、おかしいですね。有名なクリニックほど症例数が多いわけですから、当然、その劇的な成功率が反映されていなくてはならないはずです。

今、チュニジアで開かれている17th World Congress on In Vitro Fertilizationに参加しているのですが、この学会でもどうやって新しい技術を取り入れるべきかが話題になっていました。

各種の培養液や卵巣刺激の薬剤。卵のSpindleや精子の空胞が見える顕微鏡。
新しい検査に新しい培養器。どれも、素晴らしい成績があちこちに発表され、その数字に驚かされました。

しかし、「10年もしないうちに話は立ち消えになり、その間に、それを宣伝したメーカーやクリニックが稼ぎ終えている」とある演者は憤っていました。

また、今はやりのタイムラプスについて尋ねられたイタリアの教授は、データが出揃うまで科学的には答えることができないと断ったうえで、あくまで個人的な率直な印象をいうと、嘘だと思うと答えていました。

「そんな、でたらめが許されるのか」と思うでしょうが、科学とは、むしろそのようなものです。
不妊に悩むご夫婦が、新しい技術に期待して右往左往されるのはよくわかります。
しかし、革命的な技術というのは、そうそうあるものではありません。
むしろ、地道な改良や品質管理が重要です。当院では、もちろん流行の機械や方法は次々と導入し、検討しているのですが、本当に意味のある技術だけをお勧めするようにしています。

さて、チュニジアで2011年に起きたジャスミン革命は、「アラブの春」のさきがけとなり、他国へと次々と飛び火しました。しかし、革命後も、まだ政治的に不安定な状態が続いています。学会場からホテルへの帰り道、タクシーの運転手が荒れた道をさしてこういいました。

「今はまだ、革命後で混乱しているけれど、次の選挙で新しい政府ができたら道路も整備される。
来年の今頃は、道路沿いに花が咲き乱れているはずだ。」

革命が本当に実を結ぶには、時間がかかります。この国の地道な発展を願わずにはおれませんでした。
……もっとも、おつりは、少しごまかされましたが。