医師の田口早桐です。
アンタゴニスト法のほうがアゴニスト法より卵の質がよくなる?
アゴニスト(主に点鼻薬。主にショート法とロング法)で排卵抑制をして採卵する、というのが従来の方法でしたが、一時的に排卵を抑制することのできるアンタゴニストが使われだしたのは10年ほど前の話です。
2006年に国内承認を受けたばかりですから、以前は個人輸入の形で使用していました。また、それより前。現在の製剤が開発されるまでは、副作用が強くてほとんど使われませんでした。
アンタゴニストは、刺激周期では、月経6日目から使用を開始します。
製剤が出始めの頃は、アゴニストよりアンタゴニストの方が採卵した卵子の質がよい、などの報告も出ましたが、現在では、とくに卵子の質に関しては変わりないといわれています。
当院でもそのように実感しています。
また、低~中刺激では、卵胞経が14~15mm程度で投与を開始します。
アゴニストもアンタゴニストも排卵を抑制して、採卵前に排卵してしまわないようにするための薬ですが、機序は全く違います。卵胞が成熟して下垂体からのLHホルモンの分泌が急激に上昇する現象を「LHサージ」といい、それが排卵の引き金になります。
アゴニストの場合、卵胞が発育する前から、下垂体を刺激してLHやFSHの分泌を起こさせないため、あらかじめ下垂体の受容体(物質が作用するための受け皿となる構造)をブロックして、刺激を受けないようにしてしまいます。抑制の程度は非常に強力です。
アンタゴニストの場合は、ある程度卵が発育してきてから、LHサージが起こる前に一時的にLH分泌をブロックします。即効性がありますが、作用時間は短いのが特徴です。
以上のことを運転に喩えると、アゴニスト使用の排卵誘発はオートマ運転、アンタゴニスト使用の場合はマニュアル運転、と言えるかも知れません。
アゴニストに比べ、アンタゴニストのほうが卵に良いような気がするのは、この「初期の卵胞発育はブロックされない。」「一時的な抑制のみ。」というところだと思います。
当院では、刺激周期に関してはショート法(アゴニスト法)を第一選択にしていますが、低~中刺激の周期においては当然のことながらアンタゴニストで排卵抑制を行います。
ただ、刺激周期の場合でも、全体として卵子の質に関して明らかな違いがないとは言え、個々の症例によっては向き不向きや効果の現れ方の違いがあるとは思います。
過去の他院でのデータも含めた履歴を参考にして、刺激周期でも初めからアンタゴニストでの排卵抑制法を選択する場合もあります。
ただ、アンタゴニストはアゴニストに比べ、高価です。
また、排卵抑制作用が一時的で比較的弱いため、排卵してしまって採卵不能になる可能性があります。
まとめますと
アゴニスト | アンタゴニスト | |
下垂体抑制(排卵抑制効果) | 強い | 弱い |
低~中刺激周期の使用 | 不可 | 可能 |
採卵前排卵リスク | なし | あり |