医局カンファレンスです。
「刺激採卵周期では、自然月経周期に比べて子宮内膜形態が進みすぎる」原因として、排卵誘発剤、特にHMG製剤に含まれるFSH(卵胞刺激ホルモン)の連日投与によって起きる「早発プロゲステロン上昇」(premature progesterone rise)と同じくHMG製剤に含まれる「LH(黄体化ホルモン)による子宮内膜への直接作用」が挙げられています。特に前者について問題視する意見が多く、今日解説します。
プロゲステロンは内膜に作用し、胚の受け入れが可能な状態に変化させる、着床に必須のステロイドホルモンです。「プロゲステロン(別名:黄体ホルモン、P4)は、自然月経周期では、排卵した後の卵胞に形成される黄体から作られるホルモンです。
排卵誘発周期では、HCG投与によって起きた排卵後に作られ始めます。黄体機能や排卵の確認のためにプロゲステロンを血液検査で測ります。」などとよく書かれていますが、最初の2文は誤りです。
実際には自然月経周期であれ、刺激採卵周期であれ、『プロゲステロンは排卵前の卵巣でも合成されています。』
プロゲステロンは卵胞を取り囲む顆粒膜細胞と莢膜(きょうまく)細胞という2種類の細胞から作られます。
自然月経周期では、月経から排卵までの時期に、FSHの指令を受けた顆粒膜細胞と莢膜細胞はコレステロールを材料に、いくつかの過程を経て、プロゲステロンを合成します。
しかし、プロゲステロンは引き続き複数のプロセスを経て、これらの細胞の中で卵胞ホルモン・エストラジオールへと代謝されていきます。
このため血液中にはほとんど現れません。
ところが、排卵抑制剤(GnRHアゴニストやアンタゴニストなど)とHMG/FSH製剤の組み合わせによって複数の卵胞を育てる刺激採卵周期では、顆粒膜細胞・莢膜細胞の数が、自然月経周期に比べて著しく多くなり、これらがプロゲステロンを大量に作り出します。
大量のプロゲステロンを処理できなくなった卵巣は、排卵前にもかかわらず、血液中にプロゲステロンを放出します。これが、早発プロゲステロン上昇です。
血液中に現れたプロゲステロンの最大の職場は子宮、特に内膜です。
排卵前なのに、内膜に作用して、排卵後の状態に変えてしまうわけです。
(Bourgain C, Devroey P. Hum Reprod Update. 2003;9:515-522.)