医師の田口早桐です。
生殖医療技術が進み、凍結技術が発達してきました。
以前はがんや白血病の診断を受けるとその病気の治療だけで精一杯で、命が助かればいい、という風潮でした。
医療が発達して治癒することが多くなるのと同時に、凍結技術も身近になってきました。当院でも医学的な理由での凍結も社会的理由によるものと同じくらい増えています。
Human Reproduction(本年一月号)にこんな記事が載っていました。
Sphingosine-1-phosphate prevents chemotherapy-induced human primordial follicle death
抗がん剤を投与する際にSphingosine-1-phosphate(以下S1Pとします)を一緒に投与すると、卵巣に対する抗がん剤のダメージを軽減することができる、という内容です。
いきなりヒトで試すことは出来ないので、ヒトの卵巣をマウスに移植して、抗がん剤のみを投与した場合と、抗がん剤とS1Pを同時に投与した場合について、卵巣組織に対するダメージを顕微鏡で観察しています。
結果、S1Pを抗がん剤と一緒に投与することで、抗がん剤による卵巣(原始卵胞)へのダメージを軽減する効果があるということが分かりました。
抗がん剤といってもいろいろ種類がありますが、アルキル化剤と呼ばれる種類の、シクロフォスファミドがとくに卵巣毒性が強いと言われています。その機序については結論に至っていませんが、今回の論文では、細胞死の誘導の程度が毒性として検討されています。
他説で推測興味深いのが、burnoutという現象で、原始卵胞を攻撃するのではなく、本来静止状態にあるはずの原子卵胞をどんどん活性化して消費してしまうから、というものです。
*Sci Transl Med. <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=ovary+burnout>
2013 May 15;5(185):185ra62. doi: 10.1126/scitranslmed.3005402.*
*Cyclophosphamide triggers follicle activation and “burnout”; AS101
prevents follicle loss and preserves fertility*
卵子の状態で凍結することは、今となっては比較的簡単ですが、小児の場合などで組織を保存するとなると、まだまだハードルも高く、効果も不確実です。
治療後に凍結していた卵巣組織を本人自身に移植するのですが(自家移植)、凍結組織にがん細胞が残存している可能性がある場合は移植できませんし、移植がうまくいっても数ヶ月しかもたないことも多いのです。
そんな中では、抗がん剤の卵巣への影響を少しでも軽減する(もちろん抗がん剤の効果を減弱させることなく)製剤の開発が待たれます。両方向からの開発が進むことを期待しています。