慢性子宮内膜炎…その14

慢性子宮内膜炎…その14

医局カンファレンスです。

前回に続いて、慢性子宮内膜炎関連の最新論文を紹介します。
「不妊症患者の月経血を用いて慢性子宮内膜炎をスクリーニングすることは可能か?」がテーマです。(Tortorella C et al., Fertil Steril 2014;101:242-247.)

2014年3月現在、慢性子宮内膜炎の診断を確定するためには、内膜の病理組織検査が必要です。疑いのある場合には、内膜を採って調べなければなりません。

今回のイタリアのグループによる研究では、月経血中の炎症物質の濃度を測定することで内膜採取にともなう不妊女性の苦痛を減らし、慢性子宮内膜炎の診断に代用できうるか、その可能性を検討しました。

内膜生検により慢性子宮内膜炎の診断がすでに確定した64名の不妊症女性から月経血を回収し、IL-6, IL-1beta, TNFalphaの3つの炎症性分子の濃度を測定し、非内膜炎患者28人と比較しました。

慢性子宮内膜炎患者では、どの分子についても非内膜炎患者よりも高いという結果でした。
特に月経血IL-6/TNFalpha濃度比は、特異度・陽性的中率(注1)とも100%で、慢性子宮内膜炎の予測因子として利用できる可能性があると述べています。

結果の解釈にかなり注意が必要と感じました。
というのも、慢性子宮内膜炎が対象不妊患者の「56%」に診断されているからです。
これは、過去のいずれの報告から大きく逸脱した数字です。
読み直しましたが、「反復着床不全」患者ではなく、やはり「不妊症」患者の56%に形質細胞が見つかった、と書かれてあります。

この検出率の高さは、慢性子宮内膜炎が古典的染色法のみで診断されていることに原因がありそうです。
当院で行っているスタンダードな免疫組織化学法では調べられていません。

古典法のみでの慢性子宮内膜炎の診断の難しさは、このブログでも紹介してきたとおりで、
(Bayer-Garner IB et al., Arch Pathol Lab Med 2004;128:1000-1003.
Kitaya K et al., Diagnostic Histopathology 2013;19:231-237)
この研究にかなりのバイアスをもたらしている可能性があります。

また、静脈血中の炎症性物質の濃度測定は、古くから方法は確立していますが、いまだに高額です。
採血ではなく月経血をサンプルとして使うとなると、その精度管理も含めて、臨床に導入できるかどうかは未知数です。興味深い取り組みではありますが、今後さらに質の高い研究デザインが必要と考えます。

注1)
特異度は、「病気に罹っていない人」を「罹っていない」と診断できる確率を指します。
特異度が低い臨床検査では、「病気でない人」を「病気である」と判断してしまう可能性が高くなります。
陽性的中率は、「検査が陽性と出た人」のうち「実際に病気に罹っている人」と診断できる確率を指します。
昨年から話題になっている新しい出生前スクリーニングは、陽性的中率が低いことが問題になっています
(40歳の妊婦がこの検査でダウン症候群、と診断されても、17%はダウン症候群ではない)。
このような検査を確定診断のために用いるのは危険といえます。