医師の船曳美也子です。
ひきつづき、ガン患者さんの妊孕性温存のための排卵誘発法について、です。タイトルは『ランダム排卵誘発』
Effective method for emergency fertility preservation: random-start controlled ovarian stimulation
(Hakan Cakmak,M.D. Fertility&Sterility Vol.100, No.6, December 2013p1673-1679)
教科書的には、一連の卵胞形成は、直前周期の黄体期後半にみえる胞状卵胞の中から選別される、とあります。つまり、卵胞期の初期か中期に1つの卵胞が選別され、他は閉鎖する。
しかし、最近の研究では、一回の排卵周期の中に「同時に複数の卵胞形成の流れ」があることを示唆しています。
この新しい概念にもとづき、今回の論文では、どの時期の排卵誘発でも可能でしかも、卵の産生数や成熟、質を損なわないことを示しています。
概念をかえるポイントは二つ
- 卵胞早期の刺激しか同調した卵胞発育をえられない→いつから刺激しても同じ。
- 黄体や黄体期のPが局所的に抑制作用をもつ→この刺激法では発育卵胞に影響しない。
つまり、排卵誘発は周期のいつからはじめても大丈夫、ってことです。
卵巣の中にはいろんなステージの卵があるはずなので、どこからでも排卵誘発はできるはずなのですが、伝統的な考えにしばられて、だれもはっきり証明しませんでした。
が、やってみると、当たり前に卵は育ったよということです。
課題としては、この方法での卵子や胚は凍結されていてまだ使用されていないので、受精率や出産率の確認ができていないことです。
ですが、ガン治療はやはり一刻も早く開始したいものです。
今回の論文では、初回来院日より2~3週間後にはがん治療を始められています。
今までは採卵までの時間がなくてあきらめなければいけなかった場合でも、妊孕性を残す可能性ができたのは朗報です。