医師の船曳美也子です。
40代の方の体外受精は世界的にも増加していますが、やはり1回の体外受精で出産率は6%と高率ではありません。
原因は卵子の老化といわれており、加齢卵子に染色体異常が増えるのは、卵子の細胞質内にあるミトコンドリアのエネルギー産生能が低下するためではないかと考えられています。このミトコンドリアの能力を高めることが、加齢卵子の胚の質を高めると考えられるので、培養液にいろいろな抗酸化力を高める物質を添加し、胚の発育をみる研究がされます。
ミトコンドリアは細胞質の中にある小器官で、酸素をつかって、細胞内にとりこまれた糖(グルコース)を代謝し、ATPというエネルギーを産生します。ミトコンドリアが老化すると、ATPの産生量がへり、かわりに、活性酸素が増えてしまいます。
DCAは、ミトコンドリアの代謝経路を活性化し、ATPの産生を高め、抗酸化力を高める作用があります。
今回、世界で初めてDCAを培養液に添加しています。
結果は、マウス胚盤胞の栄養外胚葉、および内細胞塊の細胞数をふやし、胚のミトコンドリア活性を高め、児の体重を増やしました。
DCA(ジクロロ酢酸)は、ジクロロ酢酸塩として、ミトコンドリア病の薬にもなっています。
また、ミトコンドリアを活性化し、腫瘍の発育を阻害するとして、抗がん剤の代替療法に用いられています。
ただし、副作用もあり、効果も一定でないため、どちらの場合も使用には意見がわかれています。
DCAを即、人間の臨床に用いるのは難しそうですが、さらなる研究が待たれます。
Stimulation of mitochondrial embryo metabolism by dichloroacetic acid in an aged mouse model improves embryo development and viability
Nicole O.McPherson Australia
Fertility&Sterility vol.101, No.5, May 2014 p1458-1465