医師の船曳美也子です。
Insulin-like growth factor I increases apical fibronectin in blastocysts to increase blastocyst attachment to endometrial epithelial cells in vitro
Charmaine J.Green Australia Human Reproduction, Vol.30, No.2 pp.284-298,2015
染色体正常胚を移植しても、1人目不妊と2人目不妊では、統計上は2人目のほうが妊娠率は高いことが報告されています。つまり、子宮の着床率に個体差がある、ということです。
着床の過程は、
1)子宮内膜着床窓(子宮内膜の変化)
2)胚と子宮内膜上皮の接着
3)胚の子宮内膜間質への浸潤
4)脱落膜化した子宮内膜間質細胞との胚の相互作用
の順に起こります。
1)の着床窓とは⇒ 受精後5~6 日目に子宮に到達した胚が、子宮内膜上皮に完全におおわれる12日目までに生じる内膜の変化のことをいいます。
2)の接着では⇒ 子宮に到達した胚は、胚盤胞になると、その内細胞塊(inner cell mass)のpolar trophectoderm表面が、子宮内腔上皮細胞が向かい合うように接します。
このとき、子宮内膜上皮表面(apical surface)にpinopodesという機構が出て、胚と上皮の接着を助けます。
そして、胚のtrophoblastおよび子宮の内膜間質細胞からは、透明帯融解酵素が出て、胚は透明帯を脱出=孵化(hatching)します。
3)の浸潤では⇒ 胚が子宮内膜に接着すると、胚のtrophoblastが、各種MMP(マトリックスメタプロテナーゼ)を産生し、細胞外マトリックス(組織)を局所的に蛋白融解し、子宮内膜に浸潤します。
4)同時に、分泌期子宮内膜間質細胞は、血管透過性亢進、着床胚周囲の脱落膜化(decidualization)を生じます。
この間、胚と内膜間質細胞は、着床を助けるため、胚からは着床を促す物質を、内膜からは胚の成熟を助ける物質を出して、相互に作用しています。
これらの接着物質が何か、今までも様々な物質があることがわかっています。
1つは、胚盤胞からはfibronectin、子宮内膜からはintegrinです。今回は、それらの接着因子が、IGF-1(インスリン様成長因子)により増加した、という論文です。
このIGF-1(insulin-like growth factor1)は、字のごとく、インスリンと配列が高度に類似しているポリペプチドです。成長ホルモンの刺激をうけ、肝臓で分泌されます。細胞成長と細胞DNA合成を調整します。
今回はマウスでの実験ですが、胚盤胞の培養液にIGF-1を加えることにより、
1)胚盤胞が内膜に着床する率が増えた。
2)胚盤胞が着床するように成長した。
3)胚盤胞が、接着因子のfibronectinの分泌を増やした。子宮内膜から、接着因子のintegrinを増やすであろうFAKの分泌が増えた。
つまり、培養液にIGF-1を増やすことで、着床率があがるかもしれない、という結論でした。ところで、生体内で胚盤胞になるのは、卵管・子宮です。つまり、卵管、子宮内でIGF-1がふえていればよい。ということになります。また、内臓脂肪を減量することによりIGF-1が増加することがわかっています。
なぜ肥満で妊娠率がさがるのか、ダイエットにより妊娠率が改善するのか、わかっていませんでしたが、このIGF-1はkeyになっている可能性が高いと思っています。