エンブリオロジストの天野です。
5/30 ~ 5/31に宇都宮で、第56回日本卵子学会学術集会があり、当院は「 eSET における低グレード胚盤胞の妊孕性についての後方視的検討」という発表を行いました。
eSET は elective single embryo transfer (選択的単一胚移植)の略で、多胎妊娠を防止するために、良い胚を1個だけ選んで移植するということです。
最近は胚盤胞移植が主流となっているので、今回の発表では5日目に胚盤胞1個を移植した287周期について解析しました。
一般的に、胚盤胞はガードナー分類という判定法で評価し、3BB以上が良好とされています。
胚盤胞が複数ある場合、良い方から順に移植に用いますが、良好胚盤胞では妊娠せず、最後に残ったグレードの低い胚盤胞を移植した周期に妊娠する場合や、良好胚盤胞を得られず、やむを得ずグレードの低い胚盤胞を移植して妊娠に到る場合があります。
グレードの低い胚盤胞はどれ位の妊孕性(妊娠に到る能力)があるのかを調べたのが今回の発表です。
良好胚盤胞を移植したグループとグレードの低い胚盤胞を移植したグループに分けて、妊娠率や流産率などを比較しました。結果は、良好胚盤胞の方が妊娠率は良い傾向があるものの統計学的に差は無く、流産率は差を認めませんでした。
この結果は、極端に言うと「低グレード胚盤胞にも十分な妊孕性がある」ということを示しています(今回の研究はデータ数が少ないので、そう言い切ってしまうと暴論になりますが)。
最近、海外では着床前診断(PGS)が盛んに行われ、良好胚盤胞の中にも染色体異常があるものが半数近くあり、逆に低グレード胚盤胞でも染色体異常が無いものを認めるという報告があります。
また、不着床や初期流産は殆ど染色体異常が原因であると言われています。従ってガードナー分類による評価は必ずしもその胚盤胞の妊孕性を反映しているわけではないと考えられます。
日本ではPGSは認可されていないので移植胚を選ぶ際はガードナー分類が基準になりますが、低グレード胚盤胞の妊孕性はもっと高いと認識して良いと思います。