ヒアルロナンを精子選別に用いる有用性

ヒアルロナンを精子選別に用いる有用性

医師の船曳美也子です。

Use of hyaluronan in the selection of sperm for intracytoplasmic sperm injection(ICSI): significant improvement in clinical outcomes-multicenter, double-blinded and randomized controlled trial K.C.Worrilow,USA Human Reproduction,Vol.28,No.2
pp.306-314, 2013

世界で顕微受精による妊娠で赤ちゃんが生まれたのが1992年。
以後、20年たち、日本でも2011年までに累計8万人の赤ちゃんが体外受精で生まれています。

自然妊娠、人工授精妊娠では、卵子が卵管に入るかどうかは運任せですし、卵管に異常があれば、卵子は精子と出会う機会がありません。そこで、確実に卵子と精子を出会わせるために、体外受精が考案されました。

体内では、卵管までたどりつく精子は数百匹ですが、さらに卵子と出会える精子はもっとわずかです。
一つの卵子が受精するのに必要なのは一匹の精子なのですが、体外受精の場合、1個の卵子に2000~50万匹/mlの濃度の精子が必要になります。しかし、精子の数が少ないとき、また体外受精では受精しなかった場合は、一匹の精子を選んで顕微受精を行います。

顕微受精は、卵子に精子を入れるので、DNAが正常な良好精子を選ぶことが、重要となります。
精子は、正常形態、直進運動性良好のものが選ばれます。選び方は、他に、IMSI、HBA(hyaluronan-bound)があります。今回は、ICSIをする際に、ヒアルロナンを精子選別に用いる有用性についての論文です。

卵管内では、卵子の周辺にある顆粒膜や透明帯で選別された精子だけが受精できます。
これらのヒアルロナンは精子選別に重要な役割を果たしていると考えられるので、ヒアルロナンジェルを作成し、そこに付着する精子を集めると、成熟しDNA損傷のない精子を多く回収できるという報告があり、当院でも『ヒアルロン酸選別法』として行っています。

今回の論文は、多施設でICSIが必要な802カップルに対し二重盲検法で、通常のICSIとヒアルロ選別併用ICSIで、胚発育や妊娠結果がどう異なるかを調べています。
まずHBAテスト(ヒアルロナンに付着する精子の率)を行い、正常(65%より多い)か低下(65%以下)に分けます。正常群、低下群とも通常ICSIグループ、ヒアルロ選別併用ICSIグループに分けます。

結果は、HBAが正常群でも低下群でも、着床率はヒアルロ選別ICSIがややよい傾向にあり、臨床妊娠率は、低下群のみヒアルロ選別がかなりよい結果になりました。有意差がでたのは、低下群での流産率です。HBA低下群において、ヒアルロ選別ICSI群は、有意に流産率が低かったのです。また、ヒアルロ選別は全体に悪影響はありませんでした。

妊娠・出産に責任があるのは、卵子70-80%、子宮10-15%、精子10-15%といわれます。
(Human reproduction update vol21.No.6 p721 Sperm selection in nature and ART)が、とくに、顕微授精においては、精子選別は非常に重要となります。今後も、よい結果を、なるべく早く得られるように、できることは積極的にとりいれていこうと思っています。