日本受精着床学会に参加しました

日本受精着床学会に参加しました

臨床検査・生殖補助医療セクションの天野です。

7/20, 21に鳥取県米子市で開催された日本受精着床学会総会・学術講演会に行ってきました。
当院は子宮内膜着床能検査(ERA)に関する発表をしてきました。

今回もたくさんの演題がある中で、ARTを巡る社会問題に関するセクションが増えているように感じました。従来は、ARTは難治性不妊のご夫婦のための治療法でしたが、最近ではARTやその関連技術が様々なシーンに応用されるようになりました。

着床前診断は、重篤な遺伝性疾患や流産を減らす目的でおこなわれますが、優生思想に繋がるという主張があります。また、ドナー卵子・精子を用いた体外受精や代理出産によって同性婚のカップルが児を持てるようになった一方で、ドナーのプライバシー保護と児の出自を知る権利の問題や、現在の民法で規定されていない複雑な親子関係の問題を懸念する声があります。

これらは非常に繊細で複雑な問題ですが、これらを規制する法規はまだ無いため関連学会の自主規制で制限されているのが現状です。国内での実施が難しいので、海外で着床前診断や卵子提供などを受ける方が増えているようです。

こうした現状を踏まえ、自主規制の内容の見直しや、法の整備に向けて国への働きかけを進めているとのことなので、遠くない未来には海外諸国並にART技術の応用範囲が広がるかも知れません。ただ、新しい技術が導入される際は、その技術が革新的であるほど反発も大きいということがあります。

今回のシンポジウムで、クローンを例に挙げている演者の先生がおられました。
クローン動物の産仔の成功は畜産業に革命をもたらす画期的な技術であるにも関わらず、センセーショナルな報道が先行したせいで社会に受け入れられず、実用化できなかったとのことです。

ARTの先端技術の導入の際には、”その技術によって生まれてくる児の福祉”という繊細な問題も絡むので、技術的なことだけでなく、社会的、倫理的な観点からも十分な情報を発信して、世間のアクセプタンスを得なければなりません。
日常の診療の場で適切な情報を提供できるよう努めます。