プロゲステロン投与で流産のリスクが軽減できるのか?

プロゲステロン投与で流産のリスクが軽減できるのか?

理事長の中村嘉孝です。

従来から妊娠中の出血は流産のリスクと強く関連していることが分かっていて、小規模の試験ではありますが、初期に出血があった妊婦に黄体ホルモン(プロゲステロン)を投与することで流産が防げるという意見はありました。 従来から妊娠中の出血は流産のリスクと強く関連していることが分かっていて、小規模の試験ではありますが、初期に出血があった妊婦に黄体ホルモン(プロゲステロン)を投与することで流産が防げるという意見はありました。 従来から妊娠中の出血は流産のリスクと強く関連していることが分かっていて、小規模の試験ではありますが、初期に出血があった妊婦に黄体ホルモン(プロゲステロン)を投与することで流産が防げるという意見はありました。

そこで「妊娠初期に出血した女性にプロゲステロンを投与することで、流産の率を下げられるか否か」について結論を出すべく、英国で「ランダム化比較試験」が行われ、世界最高峰の医学誌とされるN Engl J Med誌上で、5月9日にその結果が報告されました。

A Randomized Trial of Progesterone in Women with Bleeding in Early Pregnancy (N Engl J Med 2019; 380:1815-1824)

今回は、英国の48 病院で4,153 例の患者が、プロゲステロン群(2,079 例)とプラセボ群(プロゲステロンの代わりに偽薬を投与される群:2,074例)に無作為に割り付けられ、それぞれ、どんな結果が得られたのかが比較検討されたのです。

それでは、結果はどうなったでしょう?
妊娠 34 週以降の出産率はプロゲステロン群 75%、プラセボ群 72%であり、プロゲステロン療法を行った女性の出産率は、プラセボ投与を行った女性と比較して有意には高くなりませんでした。つまり、プロゲステロン療法の効果は統計学的には無いということです。

しかし、論文の統計解析結果をよく見るとP値は、P=0.08でした。通常、このP値が0.05未満だと「統計的に有意に優れている」と判定されますので、なんとも微妙な結果ですね。
こういう場合、論文で書かれているP値だけではなく、95%信頼区間の値も見ます。たいていP値が0.05以上だと、たとえば、95%信頼区間の値は0.98~1.11とか、片方の数値が1.00未満になります。

しかし、今回では相対率が1.03で95%信頼区間が1.00~1.07と書かれています。この観点からだと、プロゲステロン療法を行った女性の出産率は偽薬投与を行った女性と比較して3%高くなるかもしれない(=流産のリスクが減らせるかもしれない)と言えるようになります。なんとも解釈するに悩ましい結果ですね。

その悩ましさを解消するためにも、引き続き、論文の詳細を検討してみましょう。

今回の論文によれば最も効果が大きかったのは習慣流産の女性で、プロゲステロン療法によって、出産率は15%も上昇しています。特に3回以上にわたって流産を経験した被験者のうちプロゲステロンを投与した137人中では98人が出産されました(70.1%)。その一方で、偽薬を摂取していた148人中で出産されたのは85人でした(58.6%)。

以上より、どうやら3回以上にわたって流産を経験した患者様にとっては、プロゲステロン療法は流産リスクを有意に減らすと思われます(P=0.01)。

研究を主導したバーミンガム女性・小児病院のアリ・クーマラサミー先生は、英国放送協会(BBC)のインタビューに答え、「この治療法によって何千人もの赤ちゃんが救われる」と話されています。

今回の結果は、通常の妊娠における切迫流産の話ですが、体外受精における妊娠ではホルモン環境が異なり、より積極的な治療が必要になります。
もちろん、プロゲステロンの役割は最も大きく、当院でも様々な治療法からベストのものを使っています。