医師の田口です。
新しい、ある意味画期的なお薬が開発されました。婦人科疾患の適応で使用されるお薬ですが、不妊治療の分野で使用すると、とても有用です。そのお薬の開発者の論文の中に、ある元患者様のお名前を見つけました。
論文は英語だし、名前の方がイニシャルになるのですが、私には100%分かりました。
彼女だ、と。
5年前、数年にわたった治療の結果が出ませんでした。最後の胚移植がうまくいかなかったあと、わざわざ別の日に、私の外来にご挨拶に来てくれました。
「不妊治療の開始が、ずいぶん高齢になってからだったから、覚悟はしていました。治療をやりきったので悔いはないです」とおっしゃいました。
ハードな仕事と両立しながら、そして転勤で関東にお引越しされた後も、当院での治療を続けてくれていました。卵巣機能が良かったので、期待した分、より苦しい思いをされたと思います。
通院中に、お仕事の話になったとき、「製薬会社の開発です。実は○○に変わるお薬の開発に関わっています。
○○はいいお薬だけど、使いにくくて高いですよね。
我々のプロジェクトがうまくいったら、不妊治療を受けている方にとって、とても役立つと思うのですが・・・
なかなか大変です。」と、笑いながらおっしゃっていました。
今、そのお薬を見るたびに、彼女の顔が浮かびます。
彼女のおかげで、また1歩、不妊治療が進歩しました。
これから、沢山の子供が彼女の成果によって生まれてくるのです。