医師の田口早桐です。
慢性子宮内膜炎についての論文を紹介します。
Fertility&Sterility 2019年 12月号から。
タイトルはEndometrial CD138 count appears to be a negative prognostic indicator for patients who have experienced previous embryo transfer failure。
CD138陽性細胞とは、形質細胞を意味します。形質細胞は、何か菌などが入った時に、それを攻撃する抗体を産生する細胞です。
ミサイル発射準備をしている感じでしょうか。子宮内膜にあると、妊娠率、着床率が下がると言われています。しかし、どのくらいあれば妊娠率が下がるのか、どのくらいあれば「慢性子宮内膜炎」と診断するのかは曖昧です。子宮内膜標本の読み方も、施設により、また観察する病理医により、ばらつきがあるし、病理からの報告に基づいてどのように判断するかも曖昧です。
当院では、様々な論文からの考察と、病理医と相談の結果、20視野をランダムに観察して、6個以上観察されたら、治療が望ましい慢性子宮内膜炎と判断しています。
今回の論文では、観察の方法を2通り試したり観察する人を変えて結果が一致するかを見たりと工夫した上で、結論として、142人の子宮内膜を検査した結果、CD138陽性細胞があると妊娠率着床率共に下がるという事、数が多ければより成功率が低くなる、という結論を導き出しています。
さらに、考察の中で、検査した時期の超音波検査で骨盤内に液体貯留があった例に関しては、それがCD138陽性細胞が多い原因になっているのではないかと述べています。骨盤内の液体貯留は、生理的なもので異常がない事も多いのですが(特に排卵後)、子宮内膜症や卵管水腫などの炎症が原因となります。液体貯留が見つかったら、そのような着床を妨げる原因がないかどうか調べ、内膜中のCD138細胞についても調べてみる方が良い、と述べられています。
着床不全に関しては、まだまだ分からない事も多いのですが、慢性子宮内膜炎という状態が関与している可能性はあるようです。ただし何か捉えきれない病変があるから(例えば、超音波ではっきりしないような、卵管水腫とか)、その結果として形質細胞が増えているのか、子宮内膜単独で増えているのか、というと、個人的にはどうも前者のような気がします。今後明らかになっていくでしょう。