染色体異常の胚を紡錘体の形で予想できる?

染色体異常の胚を紡錘体の形で予想できる?

Oocyte meiotic spindle morphology is a predictive marker of blastocyst ploidy-a prospective cohort study.
Fertil Steril 2020;113:105-113

こんにちは。培養士の川瀬です。

今回紹介する論文は、顕微授精(ICSI)をする直前の卵子に存在する紡錘体の形から、受精後の胚に染色体異常があるかどうかを予測できるか?という内容です。

紡錘体は細胞分裂の際に染色体を各々の細胞(娘細胞)に分離するための構造体です。
採卵時の年齢が高くなるほど卵子の正常な紡錘体形成が阻害されます。
その結果、胚の染色体異常が増えるため、年齢とともに流産率が高くなるとされています。

ICSIをする直前の卵子内に存在する紡錘体の形から良質胚を選択できれば、流産などが減りIVFの成功率を高めることが期待できます。

◯方法・結果
2014年7月から2017年12月に刺激周期にて採卵した2686個の卵子のうち、成熟卵2056個について紡錘体の有無、形態を以下のように分類しました。平均年齢は37.8歳でした。
1. 正常(1080個)
2. 異常-異形(463個)
3. 異常-半透明(157個)
4. 異常-紡錘体観察できず(268個)
5. 異常-第一減数分裂終期(正常な成熟卵は第二減数分裂中期である)(88個)

ICSIした後培養し、胚盤胞の一部の細胞を取りPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を行いました。

その結果、紡錘体の形態が正常な卵子は異常な卵子に比べ、正常受精率、day3発生率(6分割以上)、day5, day6における胚盤胞到達率(3BB以上)、において有意に高値でした。
胚盤胞(515個)における正常染色体は209個、染色体数異常は254個であり、正常染色体の胚は紡錘体が正常な卵子と正の相関がみられました。また、day3胚(6分割以上)よりも胚盤胞でPGT-Aを行った方が、正常染色体の確率が上がりました。
一方、第一減数分裂終期だった卵子に由来する胚の染色体数はほぼ異常でした。

◯考察・当院でできること
もしもICSIをする直前の卵子の紡錘体の形や有無が、受精後の胚の染色体の正常性と相関するなら、PGT-Aのような、胚へのダメージが否定できない検査をすることなく染色体が正常な胚を選ぶことができます。今後の更なる研究が期待されます。
とはいえ、現段階では染色体が正常な胚を培養段階で選ぶことは不可能です。
当院は日本産科婦人科学会から承認を受け、PGT-Aが可能な施設です。なかなかIVFで成功しない方は、一度医師にご相談下さい。