早発卵巣不全(POI)の新規マーカー

早発卵巣不全(POI)の新規マーカー

胚培養士の奥平裕一です。

早発卵巣不全(POI)は、40歳前に卵巣機能が停止することで定義されます。この状態は、FSHの上昇(FSH > 25 IU / L)およびエストロゲン欠乏を伴う無月経または稀発月経(月経の頻度が少ない)を特徴とします。一般的な生殖内分泌障害であるPOIは、生殖年齢にある女性の約1~5%が罹患すると報告されています。現在、POIにおける卵巣機能を予測・評価するためのマーカーとして、エストラジオール、AMH、インヒビンBなどが知られています。今回紹介する論文では、インスリン様因子3(INSL3)に着目し、卵巣機能の新たなバイオマーカーとしての可能性を調べています。

New theca-cell marker insulin-like factor 3 is associated with premature ovarian insufficiency

Fertility and Sterility, DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2020.08.005

対象・方法

2017年から2019年の間に、48人のPOI患者(25 IU/L < FSH ≤ 40 IU/L)、49人の生化学的POI患者(bPOI患者、10 IU/L < FSH ≤ 25 IU/L)、48人の正常な卵巣予備能を持つ女性(コントロール群、FSH < 10 IU/L)を対象にした後ろ向きコホート研究です。ちなみにbPOIは一般的にPOIの前兆段階と見なされ、規則的または不規則な月経およびFSHレベルの上昇と定義されています。各グループにおいて、血清および卵胞液中のINSL3のレベル、各卵巣予備能マーカー(FSH、LH、AMH、インヒビンB、E2、テストステロン、胞状卵胞数(AFC))との関連を調べています。

結果

合計145人の研究参加女性の平均年齢は31.05±3.12歳(22~39歳)でした。3つのグループ間で年齢および体重指数(BMI)に有意な差はありませんでした(P > 0.05)。卵巣機能不全の進行に伴い、FSHとLHのレベルは増加し、AMH、インヒビンB、E2、テストステロン、AFCは低下しました(P < 0.001)。

コントロール群の女性(412.02 ± 155.81 pg/mL)と比較すると、bPOI患者(291.86 ± 97.68 pg/mL、P < 0.001)およびPOI患者(179.40 ± 74.17 pg/mL、P < 0.001)では、INSL3レベルが有意に低下していました。コントロール群の女性のINSL3レベルの95%信頼区間(CI)を「正常」範囲としたところ、bPOI患者の82%(48人中40人)とPOI患者の98%(49人中48人)でINSL3レベルが正常以下に低下したことがわかりました。

また、卵胞液中のINSL3レベルについて、コントロール群とbPOI患者群で比較しています。卵胞液中のINSL3レベルは、血清と比べて約6倍も高い値となりましたが、両群間で有意な差はありませんでした(P=0.241)。

血中INSL3レベルとFSH(-0.6552、P < 0.001)およびLH(-0.4328、P < 0.001)は負の相関があり(INSL3レベルが高いとFSHおよびLH値が低い)、AMH(0.6175、P < 0.001)、インヒビンB(0.4007、P < 0.001)、AFC(0.6305、P < 0.001)、テストステロン(0.1809、P < 0.0365)は正の相関がありました(INSL3レベルが高いとこれらの値も高い)。一方、E2とは統計上有意な相関はみられませんでした(0.1581、P=0.0621)。

さらに、血中INSL3レベルはPOIの予測因子としてなり得る可能性が示されました。

解説

INSL3は、胞状卵胞の内莢膜細胞(卵胞の外側に存在し、アンドロジェンの産生に関わる細胞)と黄体で合成されます。INSL3 シグナルは、アンドロジェン合成を調節し、胞状卵胞の成長と機能を促進することが報告されています。INSL3を欠損した雌マウスでは、細胞アポトーシスと卵胞閉鎖の増加を伴う不妊症を示します。また、INSL3レベルが胞状卵胞数と正の相関があることが知られています。したがって、INSL3は、初期の卵胞発育と卵巣微小環境での機能に重要な役割を果たす可能性があります。本研究では、初めてPOIの女性における INSL3 の欠乏を明らかにしました。また、血中INSL3がPOIの有望なバイオマーカーとして役立つ可能性があることを示しています。卵胞発育の制御やステロイド合成、POIの病態に関するINSL3の詳細な役割の解明については今後の研究に期待します。

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