同じ女性でも自然妊娠と体外受精で違いはあるの?

同じ女性でも自然妊娠と体外受精で違いはあるの?

胚培養士の奥平裕一です。
体外受精は、早産、低出生体重児、子癇前症などのリスクの増加と相関するとの研究結果があり、不妊治療への懸念事項となっています。しかし、これらの有害な結果が不妊治療で用いられる技術と関連するのか、それとも不妊集団自体の固有の遺伝的および代謝特性と関連するのかはよく分かっていません。今回紹介する論文では、体外受精が有害な妊娠転帰のリスクを増加させるかどうかを、同じ女性の自然妊娠とで比較し評価しています。

Obstetric and perinatal outcomes of in vitro fertilization and natural pregnancies in the same mother
Fertility and Sterility. 2020 Nov 30;S0015-0282(20)32632-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.060.

対象・方法
2008年11月から2020年1月までの間にEdith Wolfson Medical center(イスラエル)で出産した女性のケースコントロール研究です。この研究には、妊娠24週以上で少なくとも2回の単胎出産の患者が含まれ、1回は自然妊娠、1回は体外受精で妊娠しています。なお、卵子提供による体外受精での妊娠は研究から除外されています。自然妊娠または体外受精妊娠それぞれでの、母体および新生児の転帰が比較検討されました。

結果
532人の女性の体外受精妊娠544例が、同じ532人の女性の自然妊娠544例と比較検討されました。この内292人(53.7%)の女性では、自然妊娠が体外受精妊娠よりも先でした。分娩間隔の中央値は50ヶ月で、不妊期間の中央値は2年でした。出産時の母体年齢は体外受精妊娠群の方が高かったです(32.7±5.2歳 vs. 29.7±5.4歳、P < 0.001)。
出産時の在胎週数と早産の発生率は、両群で差はありませんでした。
子癇前症や妊娠高血圧症の発生率も両群で同程度でした。
前置胎盤、胎盤剥離、器具分娩、帝王切開分娩、輸血を必要とした割合に差は認められませんでした。
低出生体重児の割合は両群で差はなかったが、出生体重は体外受精妊娠群の方がわずかに低かったです(3,164 ± 530 g vs 3,212 ± 490 g;P=0.04)。
交絡因子を調整後の多変量解析によって、体外受精は、早産、低出生体重児、子癇前症のリスク増加とは関連していないことがわかりました。

解説
この研究の目的は、各女性が自分自身の対照となるように、ケースコントロール研究デザインで自然および体外受精での妊娠転帰を比較することでした。その結果、同じ女性のコホートで比較した場合、自然および体外受精による妊娠では、母体と新生児の転帰に大きな違いはありませんでした。この知見は、不妊治療において、有害な妊娠転帰は患者の背景特性から生じる可能性があり、体外受精の手順自体からはそれほど生じない可能性があることを示唆しています。しかし、今回対象にした女性は、体外受精妊娠に加えて自然妊娠も可能であり、主に比較的不妊の程度が低い患者集団を表していると思われます。よって、不妊患者全体を反映しているわけではありません。
最後に研究の話からは逸れますが、イスラエルでは、驚いたことに生殖補助医療はほぼ完全に国費で行われていると論文中に記載されていました。ちなみに、わが国では、今年から不妊治療への助成が拡充されており、2022年度からは保険適用を目指しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です