こんにちは。検査部の鈴木です。
11月1日に開催いたしましたOak Journal and Case Reviewより、私がOak Journal Reviewで紹介した論文の内容を短く動画にまとめて公開いたしました。今回紹介した論文は、タバコやアルコール、コーヒーが流産のリスクを上昇させるかを調べた
Smoking, alcohol and coffee consumption and pregnancy loss: a Mendelian randomization investigation.
Yuan S, Liu J, Larsson SC.
Fertil Steril 2021;116(4):1061–7.
という論文です。
ただこれらの喫煙やアルコール、コーヒーと流産の関係はすでに多数の研究が行われています。ですので、当院に通院されている患者様などこれから妊娠を望まれている方にとっては、タバコは止めておこうというのは常識になっているのではないでしょうか。
では、なぜそのような研究が論文になったかというと、Mendelian randomization (メンデリアン・ランダム化)という研究デザインが非常にユニークだからです。
例えば新しい治療法、新型コロナウィルスに対するワクチンや治療薬の効果を調べる時には、一番厳密に介入(処置や投与)と結果の因果関係を調べられるランダム化比較試験を行います。ランダムに新薬を投与する方とプラセボを投与する方を決め、本人がどちらを処方(介入)されたかわからない状態で治療を進めて結果を比較します。
しかし、倫理的にランダム化比較試験を行えない研究も存在ます。例えば、今回の論文で明らかにしたい喫煙と流産の関係です。新型コロナウィルスに対するワクチンであれば、もし効果があるのであればワクチンを打つことで感染の可能性や重症化のリスクを小さくするメリットが期待できます。一方効果がなかったとしても、少なくてもワクチンを打つことで感染しやすくなるというデメリットはなさそうです。しかし、喫煙が流産のリスクを高めているのであれば、せっかく妊娠された方にタバコを吸ってもらうことはメリットがなく倫理的に認められません。
そこに登場するのが今回の論文で使用したメンデリアン・ランダム化比較試験です。この研究デザインを使用すると、タバコを吸ってもらわないのに、なぜかランダム化比較試験のようにタバコを吸うという介入をしたのと同じようにタバコを吸うことで流産のリスクが高くなっているかを明らかにできます。
この研究デザインは、非常に最先端の研究デザインでまだ生殖医療分野の研究にはほとんど取り入れられていません。しかし、観察研究ばかりでランダム化比較試験を行うことが難しいテーマが多い分野ですので、今後この研究デザインを使用した論文が増えてくると考えています。
そこで、これまでの論文紹介とはかなり異なり研究デザインに焦点を当てた動画となっていますが、詳しくはこちらの解説動画をご覧ください。