こんにちは。検査部の鈴木です。
11月15日に開催いたしましたOak Journal and Case Reviewより、私がOak Journal Reviewで紹介した論文の内容を短くまとめた動画を公開いたしました。
今回紹介した論文は、保因者スクリーニング検査の有用性を検討した次の論文です。
Clinical validity and utility of preconception expanded carrier screening for the management of reproductive genetic risk in IVF and general population.
Capalbo A, Fabiani M, Caroselli S, Poli M, Girardi L, Patassini C, et al.Hum Reprod 2021;36(7):2050–61.
保因者スクリーニング検査は、カップルで検査をすることで、遺伝性疾患を持ったお子様が生まれる可能性を調べる検査です。着床前遺伝子検査の一つPGT-M (Preimplatiton Genetic Testing for Monogenic)では、受精した胚から一部の細胞を取って調べることで、その胚から遺伝性疾患を持ったお子様が生まれるかを調べますが、この保因者スクリーニングは妊娠をされる前に可能性があるかを調べることができます。
ただ多くの方は、遺伝性疾患は自分には関係ない、また将来遺伝性疾患を持ったお子様が生まれる可能性はとても低いと思われているのではないでしょうか。実際、当院でも保因者スクリーニング検査を行えます (参照1)が、こちらの検査を受ける方はあまり多くはありません。
でも、本当に関係がない、あったとしてもその可能性はとても小さいのでしょうか?遺伝性疾患よりも染色体数の異常が原因の疾患、例えば21番染色体が3本(トリソミー)になることで発症するダウン症など、の可能性の方がずっと大きいのでしょうか?
通常の保因者スクリーニング検査では、数百の遺伝性疾患の原因遺伝子を調べます(参照2)が、この研究では11種類または23種類の遺伝性疾患に絞って検査を行いました。
その結果は、たぶん皆さんが思っているよりもずっと高い頻度で遺伝性疾患の原因となる変異を持っていることが示されました。この研究では、保因者スクリーニング検査で検査可能な遺伝性疾患の一部しか調べていないので、実際に変異が見つかる頻度はもう少し高くなると予想されます。
ただ、今回調べている遺伝性疾患は、潜性(劣性)の遺伝形式を示す遺伝性疾患です。そのため原因となる変異を持っているだけでは発症することはありません。両親からその変異を受け継いだ場合にのみ発症します。
では、染色体数の異常が原因の先天性疾患を持ったお子様が生まれる確率と、遺伝性疾患を持ったお子様が生まれる可能性はどちらが高いのでしょうか?
染色体数の異常が原因の先天性疾患を持ったお子様が生まれる可能性は、年齢に依存しています。ですので、年齢が高い方は染色体数の異常が原因の先天性疾患の可能性の方が高くなっていました。しかし、今回の研究結果からは30代後半まではむしろ遺伝性疾患を持ったお子様が生まれる可能性の方が高いとのことです。またそれ以上の年齢でも遺伝性疾患を持ったお子様が生まれる可能性が無くなっているのではありません。そのため、先天性疾患をもって生まれてくるお子さんの可能性は、染色体数の異常が原因の先天性疾患の可能性に遺伝性疾患の可能性が上積みされています。
ただ遺伝性疾患によっては、PGT-Mにより遺伝性疾患を発症しない胚を選んで移植・妊娠することが可能です。今回の研究では、先天性疾患を持ったお子さんが生まれる可能性のあるカップルが20組見つかりましたが、その内15組はPGT-Mにより遺伝性疾患の恐れのない胚を選んで移植できました。
以上のことから筆者らは、保因者スクリーニング検査はこれから妊娠を望まれる全てのカップルに有用だと結論しています。
自分や家族、親戚に遺伝性疾患を患っている方がいないと遺伝性疾患の可能性を低く見積もりがちです。詳しくはこちらの解説動画を見ていただき、遺伝性疾患の可能性が思われている以上に身近にあることを知っていただけたら幸いです。
参照
1.妊娠前遺伝子診断(保因者スクリーニング)
https://www.oakclinic-group.com/funin/ss_idn.html
2.ヒトの遺伝子の数は、まだはっきり分かっていませんが、最近は約2万個と推定されています。その内遺伝性疾患の見つかる頻度が高い変異や、重篤な変異を選んで検査しています。