Oak Journal Review:胎児由来細胞を用いた出生前診断

Oak Journal Review:胎児由来細胞を用いた出生前診断

こんにちは。検査部の鈴木です。
12月20日に開催いたしましたOak Journal and Case Reviewより、私がOak Journal Reviewで紹介した論文の内容を短くまとめた動画を公開いたしました。
今回紹介した論文は、母体血(母親の血液)に含まれる胎児由来の細胞を使って胎児の遺伝子検査を行えるかを検討した次の論文です。

Cell-based non-invasive prenatal testing for monogenic disorders: confirmation of unaffected fetuses following preimplantation genetic testing.
Toft CLF, Ingerslev HJ, Kesmodel US, Hatt L, Singh R, Ravn K, et al.
J Assist Reprod Genet 2021;38(8):1959–70.

母体血には、お腹にいるお子さんのDNA(胎児由来DNA)が含まれています。このDNAを使用して、NIPT (新型出生前診断)は、13トリソミーや18トリソミー、21トリソミー(ダウン症)など染色体の数的異常を調べています(参照1)。
この母体血中に含まれるDNAは、短く切れて断片化しています。そのためより詳しく調べる必要のある遺伝子検査には使用できません。遺伝子検査には、断片化していないDNAが必要です。
細胞に含まれるDNAは断片化していないので、今回紹介する論文では、母体血に含まれる胎児の細胞を使って遺伝子検査を行えるか検討しました。

今回の研究のハードルは、母体血中に含まれる胎児由来の細胞の数が非常に少ないということです。また、細胞には両親由来のDNAが2セットあるだけですので、それをPCR(参照2)で検査に使用できる量まで増幅できるかも不安要素です。
実際に母体血中から胎児の細胞を回収し、それをPCRにより増幅して遺伝子検査を行うことができたのでしょうか。詳しくはこちらの解説動画をご覧ください。

参照

  1. NIPTは、3つの染色体の異常のみを報告していますが、原理的には全ての染色体の数を調べることが可能です。そのため母体血で胎児の性別を調べることも原理的には可能とのことです。
  2. PCR
    PCRは、Polymerase Chain Reactionの略です。鋳型となる DNAにプライマーという短いDNAを加えて繰り返し増幅することで非常に少量のDNAを検出する技術です。
    非常に高感度であるため、化石やはく製に含まれるDNAを増幅して今は絶滅してしまった生物の研究や新型コロナウイルスの検出に使用されています。