採卵時の麻酔について

採卵時の麻酔について

医師の田口です。

体外受精が保険適用になった現在、費用の負担に関する心配は、以前に比べ減っていくと思います。もちろん、「妊娠できるかどうか」の不安は、妊娠して経過が順調となるまで消えることはないですが、費用の次に心配なのが、「痛み」のことだと思います。

排卵誘発中は、卵巣に刺激が加わり、複数の卵胞が発育しますので、お腹が「張った」ような感じは、かなりの方が経験します。採卵前後数日、とくに多数の卵胞が発育した場合は強く「張り」を感じます。

しかし、体外受精で最も痛いのは、採卵時の痛みであることは間違いありません。もちろん、痛みの感じ方には個人差があり、痛みに弱い人もいれば、強い人もいます。その日の体調によってもずいぶん違います。

私自身も採卵を複数回経験していますが、その時によって採卵後の痛みに違いがありました。全く痛みを感じない時もあれば、痛み止めを服用したときもあります。採卵の際に卵胞液や穿刺部からの出血が腹膜を刺激して痛みが起こりますから、その程度が周期によって違うのだと思います。

よく採卵を無麻酔で行うクリニックがありますが、我慢することは可能であるにせよ、大抵の方にとっては、軽い麻酔をかけたほうが、楽だと思います。昼から仕事に戻るとかで、局所麻酔のみで採卵したいとおっしゃって、我慢して採卵したものの緊張で汗びっしょりで「かえって疲れた」方もおられました。

麻酔自体のリスクももちろんありますが、今の保険診療で体外受精を行うことのできる施設要件として、「緊急手術に対応できること」という文言があります。これは、きちんと全身麻酔管理のできる体制が要求されているということです。

麻酔がかかったら、つまり痛みのコントロールができたら、手術が終わったも同然、ともいわれます。痛みで動いてしまってかえって危険なこともあります。状況に応じて、適切に麻酔を使いながら、安全に採卵を終えるように心がけたいです。

あと、採卵後の痛みは、痛み止めの坐薬等ですぐに引くことが多いです。中にはじっと我慢されている方もいらっしゃるのですが、遠慮せずにナースコールを押していただければいいと思います。