遺伝子編集ベビーの予後

遺伝子編集ベビーの予後

医師の田口です。

2018年、HIVに感染しにくいように遺伝子編集した体外受精(IVF)胚を母親の子宮に戻し、双子の女の子が誕生した、というニュースが駆け巡ったのを覚えているでしょうか?フー・ジェンクイ(賀建奎=当時は南方科技大学の准教授)が発表。CRYSPER Cas9の発明以降、いつかはヒトの遺伝子編集が行われるのではと不安と期待が渦巻く中、いきなり中国で行われ、またすでに誕生したというのは驚愕でした。 真偽についても随分取り沙汰されていました。そして、遺伝子編集をヒトに行ったことで、世界中から非難の声があがりました。

フー元准教授はその後中国で裁判にかけられて有罪となり、一躍ヒーローになるどころか、医療規制を守らなかったということで、犯罪人として刑務所で過ごすことになっていると聞いていました。

MITテクノロジー記事 (翻訳版)では、フー元准教授がすでに出所していることを伝えています。双子の赤ちゃん、ルルとナナも、どうも記事からは元気でいるようで、さらに3人目の赤ちゃんまで生まれているとのことでした。ただ、研究に参加した親子は「不当な扱いを受けている」とあり、詳細は書かれていないものの、とても心配です。

子供たちの父親はHIVに感染しているため、中国では、この実験に参加する以外に体外受精を受けることはできなかったとのことですから、複雑な気持ちになります。きちんと手順を踏まなかった科学者に対する非難はあるにせよ、子供を望む気持ちは当然だし、生まれてきた子供たちに罪はないのですから。

ちなみに、結局、フー元准教授によるこの研究に関する論文は、どの査読付き科学誌にも掲載されませんでした。

また、Narure誌にこの案件関連のニュースが掲載されていました。今は、遺伝子編集で生まれた子供たちは「アンタッチャブル」の状態で、どの研究者も関わろうとしない状況。この中で、2人の学者が、遺伝子編集で誕生した子供たちに対して、定期的に遺伝学的解析を行って、異常がおこらないかどうか、次世代に遺伝する可能性はないかどうかを調べていくべきだと主張しています。

また、日本では、この度(令和4年3月31日告示、4月1日から適用)、「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針」及び「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」の一部改正が告示されました。これもまたご紹介しようと思います。

<参考文献>
MITテクノロジー記事(翻訳)
https://www.technologyreview.jp/s/272610/the-creator-of-the-crispr-babies-has-been-released-from-a-chinese-prison/?utm_source=MIT%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC+-+%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC&utm_campaign=a6be7fb2e2-NewsLetter_TheDaily&utm_medium=email&utm_term=0_6f0fb6e76b-a6be7fb2e2-194497705&mc_cid=a6be7fb2e2&mc_eid=c3e0ce5393
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00979.html

Narure誌記事:https://www.nature.com/articles/d41586-022-00512-w

「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針」及び「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」の一部改正
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00979.html