新薬でがんが消滅

新薬でがんが消滅

がん治療薬の臨床試験で、全ての参加者のがんが消失する、という驚きの結果がありました。6月5日、New England Journal of Medicine誌に掲載された論文です。

論文では、12人のstageIIまたはIIIの直腸がんの患者さんに対し、ドスタリマブという薬を早い段階から投与したところ、投薬開始から6か月後までに、全てのケースで腫瘍が消失した、というものです。NYタイムズの記事によると、現在のところ、さらに参加者が増えて計18人の患者さんについて臨床試験が行われ、全員が治験終了時に、診察、内視鏡、精密検査のPET、MRIスキャン等の検査で腫瘍の存在が確認されなかったとのこと。

このようながんの治療は通常、手術や放射線治療などを組み合わせて治療を行うことが多いと思います。患者さんたちも、当初の計画では、抗がん剤の服用後に手術等の治療を行うという説明を受けていたとのことで、まさか抗がん剤服用だけで治療が終わるとは思っていなかったと思います。

臨床試験が行われたのはニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング・がんセンター(MSTがんセンター)で、製薬会社のグラクソ・スミスクラインが資金を支援しているそうです。

治験の対象となったのは、ミスマッチ修復欠損型(MMRd)とよばれる種類の直腸がんです。直腸がんの5%がこのタイプだと言われています。我々の細胞が細胞分裂するときに、DNA複製を行いますが、このとき、間違った塩基対が発生することがあります。通常はこのエラーを修復する機構が備わっていますが、その機能が働かないために、発生したミスマッチ(エラー)を除去することができず、遺伝子が不安定になり、腫瘍が発生しやすくなります。このようにしてできたがんを「高頻度マイクロサテライト不安定性のがん」といい、一般的な抗がん剤が効きにくいという難点があります。

このようながんに効くと考えられているのが、前述のドスタリマブのような、「免疫チェックポイント阻害剤」です。これは、我々の体内の免疫細胞のブレーキを外して、免疫細胞ががんをどんどん攻撃できるようにする薬です。

いままでの研究で、この治療薬の一種であるペムブロリズマブを転移前の早い段階で投与した場合、腫瘍が安定化や縮小、一部のケースでは消滅することが確認されていますが、今回のドスタリマブは、それを上回る効果だったようです。そして、重篤な副作用も見られなかったようです。

がん治療の進歩は目覚ましく、治療の選択肢が増えることは、素晴らしいことだと思います。今回の論文は衝撃的でしたが、さらに効果を見極めていく必要があります。

〈参考〉
the New England Journal of Medicine 論文

NYtimes記事