医師の田口です。
不妊治療、とくに体外受精が保険診療になってからもうすぐ5か月が経ちます。
未だに保険の枠内で出来るのか出来ないのかの判断がつかないことも多く、厚生労働省や地方厚生局への問い合わせを頻繁にしている状況です。時には、内容によりますが、患者さん自ら確認いただくこともあります。
先日ネットを見ていたら、4月以降保険での体外受精を受けている女性が、「(あまり説明なく)グレードが低い胚を廃棄されて、悲しい。」という内容の投稿をされていました。
どの受精卵を凍結するかしないかというのは、事前に決めていることも、その日になって決めることもありますが、患者さんに通知なくすることは、通常ありません。
その投稿へのコメント欄には、他の、やはり治療を受けている患者さん達から、「どのグレードの胚なら残すとかの説明はあったはず。」「納得いかないのなら、自分が事前に明確に伝えておくべき。自己責任。」などの厳しい意見が多く書き込まれていました。
実際に治療を受けている方たちは、クリニック側がどれだけそのようなトラブルを回避する努力をしているか、よく分かっていらっしゃるんだな(大量の承諾書と署名を毎回していらっしゃるので)と思った一方で、胚の廃棄をせざるを得ないことが辛いという投稿者の気持ちも分かるので、複雑な気持ちでした。
自由診療で行う場合は、妊娠に繋がる可能性が少しでもあれば、大抵の場合は凍結していました。低グレードの胚であってもうまくいくことがあるからです。
しかし、保険診療の場合は、移植の回数に制限があります。制限までの回数、移植して妊娠しなければ、その後は一切保険適用になりません。
しかし、採卵の回数に制限はありません。ですので、低グレードの胚を移植するよりは、再度採卵して、可能性の高いグレードの高い胚を移植したほうが良いと考えても不思議はありません。
分かりやすく説明するために、偏差値と受験を例として使います。
通常は偏差値の高いひとが合格しやすいですね。しかし、偏差値が低くても受験で合格することは、ありますよね。
今までは、例えば偏差値40で足きりにして、偏差値40以上の胚は移植に挑戦してきました。しかし、挑戦回数が限られるとなると、偏差値60を足きりラインに設定したほうが、制限回数内に成功する可能性が高まります。
前述の投稿者の書き込みは、偏差値60未満で切り捨てられた胚に対する、もやもやした気持ちを述べたものだと思います。
保険が適用されて、患者さんの経済的な負担は確実に軽減されました。
しかし、このように、以前とは異なる種類の効率を優先することになってしまっています。
ただ、保険適用も始まったばかりです。
今後さらに改定がなされていくと思います、どこかで切り捨てなければならない内容は出てきますが、できるだけ多くの人が納得できる形になることを願っています。