自然妊娠に比べて体外受精による妊娠のほうがリスクが高いと考えられている妊娠合併症はいくつかあります。
そのうち、一見関係なさそうな「癒着胎盤」と「妊娠性高血圧症」について、着床の際に起こりうる問題として捉えることができるのではないかという点を考察したいと思います。
「癒着胎盤」とは、胎盤の組織の一部(絨毛)が脱落膜を貫通して子宮の筋肉の内側に入り込んでいる状態をいいます。
分娩前には正確な診断が難しく、分娩後に胎盤が子宮からなかなかはがれないために判明することがほとんどです。
大出血の原因になると同時に、胎盤の剥離ができなければ最終的に子宮摘出になる可能性もあります。
「妊娠性高血圧症」とは、文字通り、(もともと高血圧ではなかった妊婦さんが)妊娠中に高血圧になる病態のことです。
全妊娠の3〜7%に発症し、母体死亡や周産期死亡(赤ちゃんの死亡)の原因にもなります。
両方とも、自然妊娠に比べて体外受精で起こりやすく、体外受精の中でも新鮮胚移植よりも凍結胚の融解胚移植で発生率が高いとされています。
両者は、別々の問題のように見えますが、実は着床の段階での異常が原因になっているということが共通しています。
簡単にいうと、癒着胎盤は深く着床しすぎている一方、妊娠性高血圧は浅く着床しすぎていることで起こっている可能性があるということです。
癒着胎盤が深く着床しすぎたために起こっているというのはイメージがしやすいですが、妊娠性高血圧がどうして浅い着床と関係しているのか、と思われると思います。
子宮内膜と受精卵はクロストークといって、着床の時期、互いに物質やシグナルの交換をしているといわれています。
できるだけ着床に導こうとする力が働くと考えられます。
もし受精卵が浅い位置にあれば、子宮内膜側から受精卵に血流を供給する血管が少ない状態のままで、着床に導くためには少ない血管により多くの血流を流す必要があるため、血管に多くの抵抗がかかります。
これはごく末端の状態ではありますが、胎盤付着部というのはものすごく血流が豊富な部位なので、全体への血圧の上昇に繋がる、と考えられます。
もちろん、癒着胎盤も妊娠性高血圧も様々な要因が関わっていますし、自然妊娠でも起こりうることです。ただ、凍結胚の融解胚移植という人工的に着床環境を整える中で、少しでも着床部位から起こりうる合併症を減らすための工夫ができればと思います。
今までの論文のなかには、子宮内膜の厚さや移植時のE2値、またホルモン補充に使われる薬剤の種類による影響に関しても考察がなされているものもあります。今までの知見を参考にしつつ、今後の合併症予防に繋げていけたらと思います。
【参考文献】
- National Library of Medicine / Obstetric outcomes after fresh versus frozen-thawed embryo transfers: A systematic review and meta-analysis / June 04, 2018
- Fertility and Sterility / Cryopreserved embryo transfer is an independent risk factor for placenta accreta / March 04, 2015
- scientific reports / Antenatal diagnosis of placenta accreta spectrum after in vitro fertilization‑embryo transfer: a systematic review and meta‑analysis / April 28, 2021
- ULTRASOUND in Obstetrics & Gynecology / Endometrial vascularity is lower in pregnancies with pregnancy-induced hypertension or small-for-gestational-age fetus in live birth after in-vitro fertilization / August 29, 2014
- National Library of Medicine / Pathophysiology of placentation abnormalities in pregnancy-induced hypertension / December 04, 2008