10月のASRM米国生殖医学会と11月のJSRM日本生殖医学会での話題総括

10月のASRM米国生殖医学会と11月のJSRM日本生殖医学会での話題総括

今年10月にアメリカのニューオーリンズで開かれたASRM と11月に金沢で開かれたJSRMの内容の、私なりのまとめです。

ASRMで全体的に感じたことは、アメリカでは胚のPGT-A(胚異数性検査)は、基本。その上でのプラスアルファという話題になっていました。

参加したRound Table (特定の話題に関心のある人が円卓に集まって議論する)では、PGT-A胚でEuploid(異数性なし)という結果だった胚を移植しても、着床率は50%。
Euploid胚の中で着床できるものとできないものがあるのはなぜか?
胚のいわゆる「元気さ」なのか?とすれば、それは何を指すのか、という疑問に対して、遺伝子の「発現」を見るとよいのでは、という議論がありました。

遺伝子は、遺伝子としてあればよいわけではなくて、その暗号をもとに実際に蛋白が作られないと機能しないわけです。
transcriptomicsというのは、元の遺伝子から必要な部分を写し取った段階に対する言葉。言うなれば遺伝子を鋳型に蛋白を作る、中間の段階です。その「遺伝子発現」の状態を調べて、それを「元気さ」の指標として、移植する胚の優先順位を決めようという提案もあり、実際に実用化されていくようです。

胚のPGT-Aの情報に加え、遺伝子発現状態、その他の情報をAIで解析してデータを蓄積していくことで、染色体のみではない胚の状態がより分かるようになるのではないかと思います。

そういえば、やはり10月に日本で行われた、世界人類遺伝学会Human Geneticsでも近い内容の発表があり、興味を持ったのを思い出しました。

日本の生殖医学会では、PGT-Aにはあまり触れないままで「着床の謎」というテーマが多かったように思います。
哺乳類の着床など、基礎的な分野の講演も多くありました。
ただ、やはりPGT-Aへの関心は高いようで、PGT-Aのsessionには沢山の人が参加していたようです。

着床の謎として、炎症性サイトカインを中心としたいろんな物質の話がありました。
大きくまとめると、「着床には、適度な炎症が望ましい」ということになります。

炎症性サイトカインを産生するマクロファージという細胞にM1とM2がありますが、そのバランスによって、必要な治療が異なります。
とくにM2マクロファージが増加することが着床に必要とのことです。

炎症が起こりすぎている場合は、炎症を抑えるタクロリムスが効果的ですが、M2マクロファージが相対的に少ない、つまり炎症が少なすぎる場合どうしたらいいかというと、GCSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)の注入や、大量の黄体ホルモン投与、Vitamin D、大量グロブリン療法、子宮内スクラッチ、などが有効とのことです。
当院でもグロブリン投与以外は行っています。
また、腟内に精漿(精液の中の液体成分)を注入することが、M2マクロファージを活性化するとのことで有効性が期待できるとのことで、これは試してみる価値があるかもしれません。
ただし、上記のGCSF注入は、Eshre(ヨーロッパ生殖医学会)では否定されているのです。

この秋、2つの学会を通じて、PGT-Aありなしにかかわらず、話題は「着床」に移ってきているのではないかという印象を持ちました。
日常、着床不全で悩むことが多い中で、さらにいろんな知見が出てくることを期待しています。