不育症(反復流産)と甲状腺機能異常の関係

不育症(反復流産)と甲状腺機能異常の関係

不育症(反復流産)と甲状腺機能異常との関係について、特にTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値に関しては、以前から議論があります。以前は、TSHが2.5mIU/Lを超える場合、妊娠を希望する女性には甲状腺ホルモン補充療法(例:チラージンの服用)が推奨されていました。しかし、近年のガイドラインや研究では、さらに詳細な評価が重要視されています。

潜在性甲状腺機能低下症に対する現在のアプローチ

潜在性甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの値自体は正常範囲にあるが、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇している状態です。以前はTSHが2.5mIU/L以上であれば、軽度の上昇でも早期流産リスクが上昇するといわれていました。1)2)しかし、その後、TSH値よりも甲状腺自己抗体の存在が重要だという指摘がされるようになりました。3) またその後メタアナリシスで甲状腺機能低下症のみでは流産リスクは上昇しないが、自己抗体の存在が不育に繋がるという報告がなされています。4)5)

1.TSHと不育症
  • TSHの目標値:妊娠を計画している女性のTSHの目標値は2.5mIU/L未満が望ましいとされています。これは妊娠中に適切な甲状腺ホルモンレベルを維持するためです。
  • TSHが2.5以上の場合:TSHが2.5mIU/Lを超える場合、甲状腺機能の低下(潜在性甲状腺機能低下症)が疑われ、治療が検討されます。
2.TPO抗体(甲状腺過酸化物酵素抗体)
  • TPO抗体の評価:近年の研究では、TSH値だけでなくTPO抗体の存在も重要視されています。TPO抗体が陽性の場合、甲状腺機能が正常範囲内であっても甲状腺の自己免疫性疾患のリスクが高まり、不育症や流産のリスクが増加する可能性があります。
  • 治療の決定:TPO抗体が陽性でTSHが2.5mIU/Lを超える場合、甲状腺ホルモン補充療法が推奨されることがあります。また、TSHが正常範囲内であっても、TPO抗体陽性である場合には予防的な治療が考慮されることがあります。

具体的な治療方針

  • TSHが2.5mIU/L以上かつTPO抗体陽性:甲状腺ホルモン補充療法(チラージンの服用)が強く推奨されます。
  • TSHが2.5mIU/L未満でもTPO抗体陽性:予防的なチラージンの服用を検討する。
  • TSHが2.5mIU/L以上でもTPO抗体陰性:状況により、甲状腺ホルモン補充療法を検討する。

結論

不育症と甲状腺機能異常の関係は複雑であり、単にTSH値だけでなく、TPO抗体の存在も重要な指標となります。甲状腺機能の異常が妊娠の維持に影響を与える可能性があるため、詳細な評価と適切な治療が重要です。医師と相談し、個々の状況に応じた最適な治療方針を決定することが推奨されます。

文献
1) De Vivo A Mancuso A Giacobbe A et al :Thyroid function in women found to have earlyPregAancy loss.
Thyroid 2010;20:633-7

2) Negro R, Schwartz A, Gismondi R, et al: Inereased pregnancy loss rate in thyroid antibody negative women with TSH levels between 2.5 and 5.0 in the 1st trimester of pregnancy. J Clin Endocrinol Metab 2010;95:E44-8

3) Stagnaro-Green A, Abalovich M Alexander E,  et al: Guidelines of the American Thyroid Association for the diagnosis and management of thyroid disease during pregnancy and postpartum.
Thyroid 2011;21:1081125

4) van den Boogaard E, Vissenberg R, Land JA, et al: Significance of subclinical thyroid dysfunction and thyroid autoimmunity before conception and in early pregnancy: a systematic review Hum Reprod Update 2011;17: .605-19.

5) Dong AC, Morgan J, Kane M, et al: Subclinical Hypothyroidism and Thyroid Autoimmunity in Recurrent Pregnancy Loss: A Systematic Review and Meta Analysis.  Fertil Steril 2020; 113: 587-600