最近、米スタンフォード大学とシンガポールの南洋理工大学の研究チームが、加齢の進行に関する新たな知見を発表しました。この研究は、科学誌『ネイチャー・エイジング』に掲載され、人生には老化が急激に進む時期が2回あることが明らかになりました。徐々に老いていくのではなく、ガクンと老いる時期があるようです。その2つの時期は、44歳と60歳です。
オミクス解析による加齢の詳細な理解
この研究の特徴的な点は、オミクス解析を用いて加齢のメカニズムを深く理解したことです。オミクス解析とは、遺伝子(ゲノミクス)、RNA(トランスクリプトミクス)、たんぱく質(プロテオミクス)、および代謝物(メタボロミクス)など、生命のさまざまなレベルでの情報を網羅的に解析する技術です。
- ゲノミクス:遺伝子の変異や発現量の変化を調べることで、加齢に関連する遺伝的要因を特定します。
- トランスクリプトミクス:RNAの変化を解析し、遺伝子の発現が加齢によってどのように変わるかを理解します。
- プロテオミクス:たんぱく質の量や構造の変化を調べ、加齢に伴うたんぱく質の変化を把握します。
- メタボロミクス:体内の代謝物の変化を観察し、加齢に関連する代謝経路の変化を明らかにします。
急激な老化が見られる2つの時期
研究では、108人を対象に、これらのオミクスデータを数年間にわたって観察しました。その結果、老化は単に徐々に進行するのではなく、特定の年齢で急激に進行することが分かりました。
- 44歳:カフェインやアルコールの代謝能力が著しく低下する時期です。特に、脂質代謝の変化が筋肉に影響を与えたり、脂肪が蓄積しやすくなることが指摘されています。
- 60歳:筋肉量が減少し、サルコペニアと呼ばれる筋肉量の減少が顕著になります。心血管系や腎臓病、2型糖尿病などのリスクが高くなることも分かりました。
研究の方法と発見
今回の研究では、カリフォルニア州在住の25〜75歳の健康な男女を対象に、3〜6カ月ごとに血液、便、皮膚、鼻咽頭(いんとう)の粘液を採取し、加齢に伴う変化を調べました。オミクス解析を駆使することで、加齢の進行がこれまでよりも詳細に理解されることになりました。
健康的なライフスタイルの推奨
研究者たちは、44歳と60歳の時期に差し掛かったときには、以下のようなライフスタイルの変更を提案しています:
- 飲酒量の減少:アルコールの代謝が低下するため、飲酒量を減らすことが推奨されます。
- 運動量の増加:筋肉量の維持や心血管系の健康を保つために、定期的な運動が重要です。
- 健康的な食生活:脂質や糖分の摂取を見直し、バランスの取れた食事を心がけることが勧められます。
結論
この研究は、最近使われるようになっているオミクス解析を通じて、加齢が急激に進行する特定の時期を理解することで、より効果的な健康管理が可能であることを示しています。44歳と60歳という2つの時期に注意を払い、ライフスタイルを適切に調整することで、健康で充実した生活を維持するための第一歩となるでしょう。
また今後、生殖に与える影響に関しても研究が進むと思います。生殖に関して加齢が急激に進む年齢はいつなのか、データからみると38歳あたりと43歳あたりかと見通しをつけますが(図1)、今後の研究が待たれますね。
■参考論文
https://www.nature.com/articles/s43587-024-00692-2